ブランディングの考え方

実行段階におけるブランディング施策 ブランディングとは? その5/6

2025年3月10日9分読み

実行段階におけるブランディング施策 ブランディングとは? その5/6

エグゼクティブサマリー

本記事では、ブランディング施策の実行フェーズに焦点を当てます。ブランド戦略を具体的な施策へと落とし込むための手法を、ブランドメッセージの設計・ネーミング開発・ロゴデザインといった基本要素から、広告戦略・Webサイト制作・コンテンツ企画まで、実践的なアプローチを通して詳しく解説します。

実行段階におけるブランディング施策について

ブランドの実行段階(=「ブランドのクリエイション」と「コミュニケーション」)の施策のうち、主なブランディング施策10項目について解説します。

  1. ブランドメッセージの開発
  2. ネーミングの開発
  3. ロゴマークの開発
  4. コーポレートツールの開発
  5. ブランドガイドラインの制作
  6. Webサイトの開発
  7. SNSの活用
  8. テレビ広告
  9. オンライン広告
  10. コンテンツマーケティング

ブランドメッセージの開発

ブランドメッセージの開発では、ブランドの核となるミッションや価値観を明確にし、それを簡潔で力強いワンワードで表現します。良質なブランドメッセージは、ブランドのアイデンティティ構築に大きく寄与します。

一瞬も 一生も 美しく」

資生堂

資生堂の「一瞬も 一生も 美しく」というコーポレートメッセージは、新しく深みのある価値を発見し、美しい生活文化を創造する。という資生堂の企業理念を象徴する言葉として2005年に策定されました。化粧品ユーザーの本質的ニーズに適うともに、商品の短期的効果と長期的信頼、そして品質をアピールするこのメッセージは、資生堂の事業活動、CSR活動、企業文化活動などの指針となっています。

「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」

ファーストリテイリング

2005年から使用されているこのブランドメッセージは、ファーストリテイリング(ユニクロの親会社)の革新的なアプローチを表現しています。ユニクロを含むグループ全体で、ファッションを通じて社会に変革をもたらすことを目指し、同社の売上高は2020年度には約2.3兆円に達しました。

「広がる空間、広がる自由」

キュラーズ(Quraz)

全国の主要都市でトランクルームサービスを提供するキュラーズは、顧客への提供価値をもとに開発された「広がる空間、広がる自由」とういブランドメッセージを発信しています。2017年にオリコン顧客満足度ランキングで8年連続総合1位を獲得するなど、順調にユーザー数を増やし、安定的な事業成長を続けています。
「キュラーズ」のブランディング

ネーミングの開発

ネーミングの開発では、その企業や事業、商品・サービスにふさわしい名称(ネーミング)を開発します。基本的にどのような名称であっても企業や事業、商品・サービスは成長します。しかし、良質なネーミングが与えられると、確実かつ速やかに成長します。

「レクサス(Lexus)」

トヨタ

トヨタの高級車ブランド「レクサス(Lexus)」は、1989年に北米で販売を開始しました。レクサス(Lexus)という名前は、高級感とエレガンスを連想させる響きを持ち、トヨタの信頼性と技術力を兼ね備えた高級車ブランドとして定着。大衆車メーカーによる高級車市場参入の成功例となりました。

「PlayStation」

ソニー

ソニーのゲームコンソールブランド「PlayStation」は、1994年に初代モデルが発売され、シリーズを通してゲーム業界でのソニーの地位を確固たるものにしています。直感的で覚えやすい「プレイステーション」という名称ですが、その商標は、発売の17年前である1977年に株式会社ソニーコンピュータエンタテインメントにより出願され、1980年〜1982年に商標登録されています。

「GRANDIT miraimil(ミライミル)」

GRANDIT

ERP導入企業数1,400社以上の実績を持つGRANDIT株式会社は、新ERPサービスの名称を「GRANDIT miraimil(ミライミル)」としました。この名称は、中小企業が“未来を見る”ための統合型ERPというブランドアイデンティティに基づいています。2021年のローンチ以来、miraimilは計画を上回るペースで中小企業の顧客を獲得し、ブランド戦略を推進しています。
「GRANDIT miraimil(ミライミル)」のブランディング

ロゴマークの開発

ロゴマークの開発は、視覚的な面でブランドアイデンティティの確立を目指します。ロゴマークの使用シーンは以下のように多岐にわたるため、ブランドアイデンティティの確立において非常に大きな役割を果たします。

  • コーポレートツール:名刺、レターヘッド、封筒、社員ID、企業サイン(看板)、業務車両など
  • オウンドメディア(自社媒体):自社公式サイトや特定のキャンペーンページなど
  • シェアードメディア(共有媒体):Facebook、X、InstagramなどのSNSのプロフィール画像やカバー画像、投稿画像
  • 印刷ツール:カタログ、パンフレット、IR資料など
  • 広告ツール:印刷広告(新聞広告、雑誌広告等)、オンライン広告(バナー広告、リターゲティング広告等)、看板広告(ビルボード、バス停広告等)など

カルビー

(Calbee)

日本を代表する菓子メーカーの一つであるカルビーは、2019年にリブランディングを行い、新しいロゴマークを導入しました。新しいロゴマークはシンプルで親しみやすいデザインでありながら、同社の伝統と革新が組み合わされています。このロゴは、パッケージデザインから広告、IR資料まで幅広く使用され、「おいしさと健康を両立させる」というカルビーのアイデンティティを強化しています。

リクルートホールディングス

(Recruit Holdings)

リクルートホールディングスは、2012年の新グループ体制のスタートを機に、新しいロゴマークを発表しました。“架け橋”をイメージしたこのロゴマークは、「リクルートグループが 人と機会、いまと未来、ここと世界をつなぐ架け橋となる。(中略)わたしたちが世の中へ まだ、ここにない、出会い。を届ける」というコーポレートメッセージを表現したものです。このロゴマークは、人材・住宅・結婚など幅広い事業領域を持つリクルートグループ全体で使用されています。

ラクス

(Rakus)

株式会社ラクスは、複数のサービスを展開する中で、クロスセル効果の改善と企業認知の向上を課題としていました。これを解決するためアンブレラブランド戦略を採用し、新社名「ラクス」を導入。印象的なロゴマークと「すぐ便利、ずっと満足。」というブランドメッセージを開発し、新しいブランドコミュニケーションを開始しました。これにより企業認知が向上し、サービス間のクロスセルも増大。業績は順調に伸び、6年後には東証マザーズに上場を果たしました。
「ラクス(Rakus)」のブランディング

コーポレートツールの開発

コーポレートツールの開発では、名刺、レターヘッド、封筒など、企業業務で使用するツールを統一的に開発します。ブランドガイドラインと歩調を合わせて開発することで一貫した運用が可能となり、ビジュアルのアイデンティティが毀損されることを未然に防ぎます。

住友不動産

(Sumitomo Realty & Development)

不動産開発を主体とする住友不動産の名刺は、都市空間の調和と社会貢献の意識を反映したデザインで、企業の持続可能性の表現を意識しています。働く場所や役職によってテキストの表示規定は異なり、マニュアルで管理されています。

ラクス

(Rakus)

株式会社ラクスは、「楽楽明細」などのクラウドサービスを提供する企業です。同社は名刺や封筒などのデザインを2009年に統一し、ブランドガイドラインを用いて運用しています。この成果として社内外のコミュニケーションが効率化され、顧客からの信頼度が20%向上し、従業員の満足度が15%上昇しました。
「ラクス(Rakus)」のブランディング

ブランドガイドラインの制作

ブランドガイドラインとは、ブランドの視覚的および言語的な規定を説明する冊子もしくはデータファイルです。ブランドの一貫性を維持しクオリティを担保する手引書として、企業内で共有されます。

三菱商事

(Mitsubishi Corporation)

多岐にわたる事業を展開する総合商社である三菱商事は、コーポレートツールの開発においてブランドガイドラインを厳密に順守しています。2017年に策定された最新のブランドガイドラインによって、デザインの統一性と使用方法がより明確化され、企業のビジュアルアイデンティティの確立を推進しています。

寺岡精工

(TERAOKA/DIGI)

世界第2位の計量器・POSシステムのメーカーである寺岡精工は、ビジネスユニット制度の導入後に企業イメージの分散によりリスク要因が生じていました。そこで一貫したTERAOKA/DIGIブランドの確立を目指してブランドガイドラインを制定。さらにグローバル展開での統一性を強化するために、グローバルVI(ビジュアルアイデンティティ)マニュアルを開発します。これらの取り組みは功を奏し、4年間で売上高25%増という好業績を後押ししました。
「寺岡精工(TERAOKA/DIGI)」のブランディング

Webサイトの開発

Webサイトは、オウンドメディア(自社媒体)のうち特に重要なもので、ブランド価値やミッションの発信、好感や共感の獲得、ブランドアイデンティティの確立に大きな役割を果たします。ユーザーエクスペリエンス(UX)を重視したコンテンツやデザインも重要ですが、ブランドとしてのメッセージ性を意識する必要があります。

無印良品

(MUJI)

無印良品は、製品の購入だけでなく、ライフスタイルや持続可能性に関する情報発信をオンラインストアにて行っています。2000年にオンラインストアを開設した当時の商品数は2,500程度でしたが、現在は7,000となり、ECサイトの枠を超えた、ブランドの哲学や高品質を訴求するプラットフォームとして活用されています。

横山香料

120年の歩みを経て中堅企業へと成長し、業界内で確かな存在感を示す横山香料。業績の伸長と社員数の増加を背景に企業ブランディングに取り組みます。理念を継承したままMVVを再策定した横山香料は、「明日の食を 豊かに彩る」というアイデンティティの構築に向けて、メッセージ性を重視した企業Webサイトを再開発しました。
「横山香料」のブランディング

SNSの活用

SNSの活用は、ブランドの認知度を高め、顧客とのエンゲージメントを深めるために有効に機能します。顧客層が好むSNSプラットフォームを特定した上で、定期的な投稿やインタラクティブなコンテンツを通じてフォロワーとコミュニケーションを図ります。

ローソン

(Lawson)

ローソンはTwitter(現X)を活用して顧客と直接コミュニケーションを行いました。例えば季節限定商品の発売を告知し、フォロワーからのリツイートやコメントを募集するキャンペーンを実施。2019年には1週間で30,000件以上の参加がありました。

メガネトップ

(Megane Top)

メガネトップはInstagramを使ったビジュアルコンテンツ戦略でブランド認知を高めました。特に若年層をターゲットにした、スタイリッシュでトレンド感のあるメガネの写真を定期的に投稿。2018年以降、フォロワー数は年間20%以上増加しました。

テレビ広告

テレビ広告には、広範なリーチ、視覚的・聴覚的な影響力、信頼性の向上、ブランド認知の強化などのメリットがあります。その一方で、高いコスト、多様化による視聴者の分散・希薄化、効果測定の難しさなどのデメリットがあります。

「かんぽ生命」

日本郵政

日本郵政は、かんぽ生命という生命保険ブランドを広めるために、感動的なストーリーや家族愛をテーマにしたテレビCMを展開。特に2018年には、多くの視聴者から共感を呼び起こし、ブランドの人間性と信頼性を訴求する成功を収めました。

ソフトバンク

(SoftBank)

ソフトバンクは、通信サービスの提供を中心にしたテレビ広告を効果的に活用しています。たとえば独自のキャラクターを活用したCM(2007年に開始した「白戸家」シリーズ)が話題となり、ブランドの親しみやすさと共にサービスの魅力を伝えています。

オンライン広告

オンライン広告では、精緻なターゲティング、容易な効果測定、コスト効率の良さ、即時性・柔軟性などのメリットがあります。その一方で、ユーザーの広告ブロック設定によるリーチの制限、スパム広告の増加に伴う信頼性の低下などのデメリットがあります。

スクウェア・エニックス

(Square Enix)

スクウェア・エニックスは、新作ゲームのプロモーションを、オンライン広告を中心に展開しています。特に2016年以降ターゲティング広告を用いて未購入ゲーマー層に直接訴求し、ゲームの事前登録や販売促進を図っています。その結果、ファイナルファンタジーVIIなど複数のゲームタイトルで事前予約数が100万人を突破しています。

楽天

(Rakuten)

楽天はポイントプログラムを活用したオンライン広告を展開しています。データ活用を強化した2017年以降、会員利用データを基にした個別のターゲティング広告を実施し、顧客の購買行動を促進。この取り組みにより広告費対効果(ROAS)が年間10%以上改善されました。

コンテンツマーケティング

コンテンツマーケティングは、ブログ記事、動画、ホワイトペーパーなど顧客にとって価値のあるコンテンツを通じて、顧客との関係を築く手法です。顧客エンゲージメントの向上やリード獲得どのメリットがある一方で、多くの時間と労力が必要、即効性が低いなどのデメリットがあります。

マネーフォワード

(Money Forward)

マネーフォワードは、家計簿アプリやクラウド会計ソフトを提供しており、ブログやYouTubeを通じて税務や経理に関する専門的な情報を発信しています。YouTubeチャンネルのコンテンツでは視聴回数1万回を超えるものが多数あり、10万回を超えるものも複数存在します。

キントーン

(kintone)

サイボウズ株式会社が提供するグループウェア「kintone」は、利用者向けのブログ記事やケーススタディを充実させています。実際の企業導入事例を通じて利用者がどのようにkintoneを活用しているかを紹介することで、新規ユーザーの獲得に結び付けています。

まとめ

本記事では、実行段階におけるブランディング施策の具体的な取り組みを解説しました。例えばブランドメッセージの開発では、企業の価値観やミッションを簡潔に表現し、ブランドの核となる言葉を明確にすることが重要です。また、ネーミングの開発では、企業や商品・サービスの成長を加速させる名称を検討し、ブランドの印象を強める適切な言葉を選定します。こうした施策を適切に実行することで、企業のブランド価値を高め、市場における存在感を確立します。

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この記事・レポートについて

この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

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