変革期のブランド戦略

「ブランド資産」を活かして企業成長を加速させる方法

2025年5月20日7分読み

「ブランド資産」を活かして企業成長を加速させる方法

エグゼクティブサマリー

企業成長において「ブランド資産」は、見えにくいながらも非常に強力なドライバーです。売上や利益といった短期的な成果に目が行きがちですが、中長期的に企業を成長軌道に乗せるためには、無形資産としてのブランドをいかに活用するかが問われます。

価値あるブランド資産を持つ企業は、市場での認知が高まり、顧客との信頼関係が深まり、採用や価格戦略にも良い影響を与えます。本レポートでは、ブランド資産の構造とその活用による成長効果を具体的な事例とともに解説し、経営に活かせるブランド戦略の考え方と実践のポイントを、事例を交えて丁寧に紐解いていきます。

「ブランド資産」とは何か?

ブランド資産とは、企業や製品・サービスに対して消費者が抱く認知・印象・信頼といった“無形の価値”の蓄積を指します。これは財務諸表には現れにくいものの、企業の中長期的な成長を左右する重要な資源です。構成要素としては、

  ● ブランド認知(どれだけ知られているか)
  ● ブランドイメージ(何と結びついているか)
  ● 顧客ロイヤルティ(どれだけ繰り返し選ばれているか)
  ● ブランド体験(顧客が接触した際の印象や満足度)

などが挙げられます。

例えば、名前を聞いただけで品質やサービスを想起できる企業は、それだけで競合との差別化が可能です。これは広告や販促費に頼らずとも顧客を惹きつけ、継続的な収益につながる点で、ブランド資産が競争優位を生むメカニズムと言えます。特に中小企業においては、営業力や資本力に頼るよりも、ブランドによって信頼を獲得し、着実に顧客との関係性を築いていくことが成長への近道です。

「ブランド資産」が企業成長に与える影響

ブランド資産は、売上や利益率といった経営指標に直接的・間接的な影響を与えます。たとえば、強いブランドは顧客獲得コスト(CAC)を下げ、マーケティング費用の効率化を可能にします。また、価格に対する許容度(価格プレミアム)が高まり、結果として利益率を向上させます。さらに、ブランドの信頼性はLTV(顧客生涯価値)にも大きく寄与します。

また、ブランド資産の強化によって、顧客からの信頼やロイヤルティが高まり、企業価値が向上します。また、社員のエンゲージメント向上や優秀な人材の採用・定着にもつながるため、長期的に持続可能な成長基盤を築けます。

成功事例

成功事例❶ 「ブランド名:バーミキュラ」―ドビー株式会社(愛知)

愛知県にある鋳物メーカー「愛知ドビー株式会社」は、2010年に自社ブランド「バーミキュラ」を立ち上げました。それまでOEM中心だった事業から、独自製品の開発へと舵を切った背景には、「製品の真価を生活者に直接届けたい」という想いがありました。

ホーロー鍋バーミキュラは、開発に3年以上、試作回数は1万回以上を重ねて生まれました。高い密閉性と素材本来の旨味を引き出す炊飯性能で注目を集め、価格帯は一般的な鍋の数倍にもかかわらず、販売台数は累計30万台を突破しました。

この成功の背景には、「手間をかけてでもおいしいものを作る」という生活価値に共鳴するブランドメッセージと、パッケージ・店舗体験・SNS発信といった接点すべてにおける一貫した世界観の設計があります。

結果として、グッドデザイン賞受賞、国内外のメディア露出、さらに東京・中目黒の体験型施設「バーミキュラビレッジ」など、ブランド資産は企業価値そのものへと昇華し、企業全体の成長を牽引しています。

成功事例❷ 「子育てにちょうどいいミシン」―株式会社アックスヤマザキ(大阪)

大阪の老舗ミシンメーカー「アックスヤマザキ」は、もともとOEM生産を中心としていた企業です。市場が縮小する中、事業存続をかけ「子育てにちょうどいいミシン」という明確なコンセプトを打ち出した自社ブランドを開発し、大きな飛躍を遂げました。

従来の高齢者層ではなく、若年の子育て世代にターゲットを設定。手軽で軽量、かわいいデザインと簡単操作を兼ね備えたこの商品は、発売直後からSNSやメディアで話題となり、楽天市場で総合1位を獲得するなど短期間で大ヒットを記録します。

累計販売台数は3年間で10万台を超え、グッドデザイン賞金賞受賞、MoMAでの展示といった外部評価も獲得。ブランド資産の創出が、価格競争に依存しない独自のポジション確立と、企業認知の向上につながりました。

企業成長に「ブランド資産」を活用するために

企業成長にブランド資産を活用するためには、ブランドを戦略的に管理していくことが欠かせません。自社の強みを活かしつつ課題を正し、社内外での共通理解を深め、ブランド資産の現状を可視化することが、企業成長を加速させる基本的な指針となります。

① 自社ブランドの“強みと弱み”を定義し、戦略的に活用する

ブランド資産の構成要素(認知、印象、ロイヤルティなど)を分解し、自社のどこが強みでどこが課題かを明確にすることで、改善や投資の優先順位が見えるようになります。

② 全社的なブランド理解・共通認識の醸成

ブランドは経営者だけのものではありません。現場の従業員やパートナー企業がブランドの価値を理解し、一貫性をもって発信・行動できるかが、企業成長の鍵となります。いわゆるインナーブランディングによって、ブランド資産は社内に根づき、実際の言動として一貫性をもって発揮されていきます。

③ ブランド資産を「定量的に捉える」

ブランドは感覚的なものと見なされがちですが、ブランド認知度、NPS(顧客推奨度)、LTVなどを用いて定量的に可視化し、必要に応じて改善アクションを講じることが、資産価値の持続的向上につながります

まとめ

ブランド資産は、企業の「らしさ」を社会に伝え、顧客や社員との信頼を積み上げる力です。それは単なる広告やロゴデザインではなく、日々の製品開発、サービス提供、対話の積み重ねによって育まれる無形資産です。そしてそのブランド資産こそが、価格競争からの脱却、新たな顧客層の獲得、採用力の強化、さらには企業価値の向上に直結します。

技術や品質だけでは届かない価値を、ブランドを通じてどのように伝えるか…。ブランド資産を企業成長のドライバーとして機能させる視点を持つことが、ブランド資産を活かして企業成長を加速する出発点なのです。

ブランドライブラリーの
最新情報

    関連情報

    • ブランディングのナレッジ ブランディングに欠かせない基礎情報ブランディングのナレッジ ブランディングに欠かせない基礎情報
    • ブランドライブラリー ブランド・ブランディングの基本ガイドブランドライブラリー ブランド・ブランディングの基本ガイド
    • ブランディングBooks ブランディングに役立つ書籍の紹介ブランディングBooks ブランディングに役立つ書籍の紹介
    • ブランドネームの由来 ブランドネームの意味と物語ブランドネームの由来 ブランドネームの意味と物語
    • ブランドメッセージ ブランドメッセージの背後にある戦略とは?ブランドメッセージ ブランドメッセージの背後にある戦略とは?
    • 記事・レポート 経営者様・ご担当者様向けコンテンツ記事・レポート 経営者様・ご担当者様向けコンテンツ

    この記事・レポートについて

    この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

    この記事・レポートについて
    そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。お問い合わせフォームお問い合わせフォーム