採用ブランディング機能させるために。ブランディング会社のリアルな視点を、noteでも紹介しています。
「採用ブランディングを機能させる、ブランディング会社フォアビスタの視点。」 ↗︎
インナーブランディング
2026年6月16日 《更新》 11分読み


採用が難しい時代だ、という言葉はすでに説明になっていません。中堅・中小企業の現場では、求人を出しても応募が集まらない、やっと採用できても定着しない、という状況が慢性化しています。その一方で、同じ地域、同じ業界でありながら、安定して人材を確保している企業が存在するのも事実です。その差を分けている要因の一つが、採用ブランディングへの向き合い方です。
採用ブランディングは、見た目を整える施策ではありません。自社がどのような価値観で事業を行い、どのような人と、どのような関係を築きたいのかを言語化し、外部に伝わる形に整える営みです。特に中堅・中小企業にとっては、知名度や待遇で大企業と競うのではなく、企業の「らしさ」を軸に選ばれる状態をつくることが現実的な戦略になります。本レポートでは、現場で観察される採用課題を起点に、採用ブランディングをどのように始め、どのように機能させていくべきかを整理します。
中小企業の採用が難しい理由は、よく知られた要因だけで説明できるものではありません。実務の現場で起きているのは、「やっていること」と「伝わっていること」のギャップです。企業側は一定の努力をしているつもりでも、その努力が候補者の判断軸と噛み合っていない。そのギャップが積み重なった結果として、希望する人材が集まらない状態が生まれています。
第一の要素は「企業が語っている内容と、候補者が知りたい情報の焦点がずれている」ことです。企業は事業内容や募集背景を丁寧に説明しますが、候補者が本当に知りたいのは「この会社で働くと、どんな意思決定に日々向き合うのか」という点です。仕事の目的や判断基準が見えない企業は、能力の高い人材ほど慎重に距離を取ります。
第二の要素は「採用要件が“理想像の寄せ集め”になっている」ことです。経験もあり、主体性もあり、協調性もある。そうした要件は間違ってはいませんが、現実の仕事環境と結びついて語られていない場合、候補者は自分の居場所を想像できません。結果として、応募に踏み切る理由が生まれないまま通過されていきます。
第三の要素は「経営者自身が“採用される側の視点”を持てていない」ことです。事業や組織への想いは語れても、それが候補者のキャリアや人生とどう接続するのかまで踏み込めていないケースが多く見られます。採用は選考であると同時に、企業が選ばれるプロセスであるという認識が薄いと、言葉は一方通行になります。
第四の要素は「仕事の厳しさが意図せず隠れてしまっている」ことです。前向きな表現を重ねるほど、実態が見えにくくなります。候補者は「ここで本当にやっていけるか」を測ろうとしています。厳しさや難しさに触れない企業ほど、かえって不信感を招き、覚悟のある人材から離れていきます。
第五の要素は「採用活動を“反応を見る行為”として終わらせている」ことです。応募が来た、来なかった、という結果だけを見て次の手を打つ。その繰り返しでは、なぜ反応が生まれたのか、なぜ届かなかったのかという学習が蓄積されません。採用が改善されない企業ほど、毎年同じ問いを立て直しています。
これら五つの要素に共通しているのは、採用を情報発信ではなく、関係構築の起点として捉えきれていない点です。中小企業の採用が難しいのは、条件が劣っているからではありません。語るべきことと、語り方が噛み合っていない。その事実に気づけるかどうかが、次の一手を分けます。
採用ブランディングを考える際、最初に整理すべきは、ごく当然のことですが「どんな人に来てほしいのか」という一点です。スキルや経験だけではなく、価値観や仕事への向き合い方まで含めて像を描くことが重要です。そのうえで、自社が提供できる環境や機会を正直に見つめ直していきます。その際、自社を魅力的に見せることよりも、実態に即して客観的に言語化することが、結果としてミスマッチを減らします。
また、採用ブランディングは採用ページや動画といった制作物そのものではありません。経営の考え方、現場の文化、日々の意思決定が一貫しているかどうかが問われます。候補者は企業側の発信だけでなく、面接時の言葉遣いや質問内容からも企業像を読み取っています。そのため、経営者自身が採用を自分事として捉え、語れる状態をつくることが欠かせません。
採用ブランディングは、惰性で進めるものではありません。成果につながっている企業ほど、段階を踏みながら、無理のない形で進めています。ここでは、実務の現場で実用性の高いステップとして整理します。
最初に行うのは、社内の整理です。経営者へのヒアリングや現場社員との対話を通じて、会社がこれまでどのような判断を行い、どのような選択を積み重ねてきたのかを掘り下げます。創業の背景や、成長局面・停滞局面で何を優先してきたのかといった事実は、理想をうたったスローガンよりも雄弁に企業の姿勢を物語ります。この段階では、結論を急がず、認識のズレを把握することが重要です。
次に行うのが、採用コンセプトの言語化です。ここでいう採用コンセプトとは、耳触りのよいコピーではありません。「この会社は、どのような考え方で仕事をし、どのような人と長く働きたいのか」を、明文化した状態を指します。重要なのは、万人に向けた言葉にしないこと。来てほしい人が共感し、そうでない人が違和感を覚える。その線引きができて初めて、コンセプトとして機能します。
なお明文化の際には、スキルや経験よりも先に、価値観に焦点を当てます。どのような場面で評価され、どのような振る舞いが信頼につながるのか。逆に、この会社では合わない考え方は何か。こうした点を正直に整理することで、採用コンセプトは抽象論から判断軸へと変わっていきます。
採用コンセプトが定まれば、募集要項や採用サイト、説明会での語り方に反映させます。情報量を増やす必要はありません。同じ判断軸が、どの接点でも感じ取れる状態をつくることが重要です。コンセプトが明確であれば、表現の細部は多少異なっても、全体としてブレは生じません。
最後に、採用活動を通じて得られた反応を確認し、言葉や表現を微調整していきます。応募が集まったかどうかだけでなく、どの点に共感が集まり、どこで迷いが生じたのかを見極めることが重要です。採用ブランディングは一回で終わりではなく、企業や社会の変化に合わせて更新され続けるものです。
高品質な革製品メーカーとして知られている株式会社土屋鞄製造所。その採用ブランディングの文脈で重要なのは「ものづくり企業として、誰を採らないかを明確にした点」にあります。

同社は職人不足が深刻化する中で、単に「技術を持つ人材」を広く集めるのではなく、長期的に技術を磨き続ける覚悟を持つ人材かどうかを採用の判断軸として再定義しました。
具体的には、新卒・未経験者の採用においても、「即戦力」や「センス」といった曖昧な評価を避け、
・なぜ土屋鞄で働きたいのか
・10年以上かけて技術を積み重ねる仕事観を受け入れられるか
といった価値観・姿勢を重視する選考プロセスを設計しています。
また、採用情報やメディア露出では、仕事の厳しさや地道な工程を積極的に開示し、「華やかな職人像」を意図的に打ち消しています。これにより応募数自体は抑制される一方、入社後の早期離職は減少し、育成前提の採用が成立する状態をつくっています。
土屋鞄の事例は、採用を「人手不足への対処」としてではなく、事業継続のための長期設計として捉え直した点に本質があると言えます。
出典
・日経MJ「土屋鞄、職人育成を前提にした採用戦略」
・東洋経済オンライン「土屋鞄製造所が未経験者採用を続ける理由」
・土屋鞄製造所 公式採用情報・プレスリリース
サイボウズ株式会社は、深刻な人材流出を経験した後、採用の考え方そのものを見直しました。その結果、005年に離職率が28%に達し、「スキルや即戦力を基準に採るほど、組織が崩れる」という課題に直面しました。
その反省から、サイボウズは組織・人事制度の抜本的見直しを行います。採用基準を「能力」中心から、「価値観・働き方への適合」へと明確に転換したのです。

「どんな人と働きたいのか」という採用判断軸を、制度と言葉で外部に示す取り組みを推進した結果、応募者の母集団は一時的に減少したものの、入社後の定着率は大きく改善し、離職率は一桁台まで低下しています。また、採用ページや説明会では「合わない人は合わない」と明言する姿勢を取り、ミスマッチを前提で防ぐ採用設計へと移行しました。
サイボウズの事例は、「誰でも歓迎する採用」から、「価値観で選び合う採用」へと転換することで、人材難そのものの質を変えた点に特徴があると言えるでしょう。
出典
・日本経済新聞「サイボウズ、離職率28%からの組織改革」
・サイボウズ株式会社 プレスリリース/統合報告書
・『サイボウズ式』関連書籍・公式発信
採用ブランディングを機能させるためには、短期的な成果を求めすぎない姿勢が大切です。採用時に語っている内容と、入社後に直面する実態にギャップが生じれば、信頼は容易に失われます。仮に採用人数が増えたとしても、定着につながらなければ、企業にとっての意味は限定的です。
また、外部のブランディング会社を活用するときも、任せきりにしない姿勢が重要になります。採用ブランディングは、外部の力によって見栄えのよい制作物をつくることではありません。自社の考えや判断を“自分たちの言葉”で語れる状態をつくることが、その本質です。制作物は、そのプロセスの手段に過ぎません。
採用ブランディングは、人材難を解決するための特効薬ではありません。しかし、自社が何者で、どこへ向かおうとしているのかを整理するプロセスによって、結果的に、望ましい人材が定着する状態を生み出します。
中小企業だからこそ語れる物語があり、その価値観や可能性に共感する人材は必ず存在します。採用ブランディングをきっかけに、自社の在り方を見つめ直す。その姿勢こそが、選ばれる企業への一歩となるのです。
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このレポートについて
フォアビスタ株式会社 代表・ブランディングディレクター
大手広告代理店、インターブランド ジャパン、デグリップ ゴーベ グループ ジャパンを経て、フォアビスタを設立。20年以上にわたり企業・事業・商品を対象としたブランド戦略の立案と実行/実装を統括している。経営とブランディングを結びつける伴走型アプローチで、絵に描いた戦略で終わらないブランドコンサルティングを実践。数多くのブランディングプロジェクトを成功に導く。
これまでに携わった主なブランドは、JR東日本、ラクス、寺岡精工、味の素、塩野義製薬、NTTドコモ、カゴメ、サントリー、ローソンなど。企業ブランディングから事業開発・組織活性化まで、その支援領域は包括的かつ多岐にわたる。

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