ブランドデザイン

このロゴはなぜ記憶に残るのか? ブランドデザインの心理学

2025年3月10日8分読み

このロゴはなぜ記憶に残るのか? ブランドデザインの心理学

エグゼクティブサマリー

ロゴは企業の顔とも言える存在です。顧客の記憶に残り、企業イメージを直感的に伝えるため、ブランド戦略においてロゴの設計は極めて重要です。本レポートでは、「なぜ記憶に残るロゴがあるのか?」という疑問を出発点に、ロゴが人の記憶に残る心理的要因と、そのデザインに必要な要素について解説します。

中堅・中小企業が限られたリソースの中でブランドを確立していくためには、印象的で意味のあるロゴが大きな力になります。この記事では、実際の事例を交えながら、成功のポイントを分かりやすくご紹介していきます。難解な専門用語を使うことなく、経営者やブランド担当者の方々にとって実用的で、すぐに活かせる視点を提供することを目的としています。

記憶に残るロゴの心理学

ロゴが記憶に残るかどうかは、「視覚認知」「感情喚起」「記号化」という3つの心理プロセスが関係しています。まず、人は複雑な形よりもシンプルで整理された形を好む傾向があり、これを「ゲシュタルト原則」と呼びます。視覚的にまとまりのあるロゴは、人の脳内でスムーズに処理され、記憶に残りやすくなります。

また、色彩も記憶の定着に大きく寄与します。たとえば、赤は情熱や緊急性、青は信頼や誠実さを象徴するといった感情的な連想が働くため、適切なカラー選定はブランドの印象を左右します。

さらに、ロゴに「意味」が込められていると、人はそれを記号として覚えやすくなります。これを「記号化」といい、たとえば社名の頭文字をモチーフにしたロゴは、その企業を想起しやすくする効果があります。

具体的な事例

事例① メルカリ「発見の喜びを形にした赤い箱」

フリマアプリ「メルカリ」は、2018年にロゴを刷新しました。赤い箱のアイコンを中心とした新しいロゴは、親しみやすく洗練された印象を与えるデザインに生まれ変わりました。多くの人の記憶に残るこのロゴの特長は、「視覚的なシンボルの明確さ」と「感情に訴える色彩」にあります。

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赤という色は、活気やエネルギー、そして楽しさを直感的に想起させます。さらに、箱という形状は「何が入っているかわからないワクワク感」や「手元に届く体験」を象徴し、ユーザーの期待感や発見の喜びと結びつきやすい視覚要素です。また、シンプルなフォルムは記憶の中で再生しやすく、瞬時にブランドを想起させる力があります。

このロゴ変更は、単なるデザインの刷新ではなく、メルカリが目指す“日常に溶け込むマーケットプレイス”というブランドの方向性を視覚的に表現したものです。親しみと信頼感を同時に伝えることで、ユーザーの心理に自然と残り、ブランドとの距離を縮める効果を生んでいます。

事例② サントリー「“水と生きる”を体現する青」

サントリーは、2005年にロゴマークを刷新し、それまで長年親しまれてきた「向かい獅子マーク」から、清涼感のある青色のロゴへと大胆に生まれ変わりました。このロゴが記憶に残る理由のひとつは、色彩の持つ心理的効果にあります。水や空を連想させる爽やかなブルーは、見る人に安心感と信頼感を与えると同時に、サントリーの「水と生きる」企業姿勢と直感的に結びつきます。

また、シンボルを廃し、文字そのものを印象的に見せるタイポグラフィ中心のデザインにしたことで、ブランド名の認知をより強固にしました。視覚情報がシンプルであるほど記憶に定着しやすいという認知心理学の原則を踏まえた変更であり、現代的でありながら、企業の理念と強く連動したロゴに仕上がっています。

このロゴは、見た瞬間に「サントリーらしさ」を感じさせ、視覚的にも感情的にも印象を残す設計になっているのです。

事例③ ラクス「“!”で期待感や驚きをアピール」

ラクスは2009年、社名変更に伴うリブランディングでロゴデザインを一新しました。新しいロゴは、シンプルで直感的に覚えやすい「楽」の漢字を中心に構成されています。そして特徴的なのは、エクスクラメーションマーク「!」のシンボルです。このシンボルは、単なる装飾ではなく、期待感や驚きを視覚的にアピールし、ラクスが提供するサービスの楽しさや利便性を印象づけます。

また、ロゴ全体に使用されている鮮やかなオレンジ色も重要な要素のひとつです。このブランドカラーは、親しみやすさや温かみを表現すると同時に、見る人にポジティブな印象を与えます。ITやクラウドといった一見無機質になりがちな領域において、ラクスらしい「楽(らく)」「楽しい」というブランドイメージを強調する役割を果たしています。

「ラクス」という社名自体が、シンプルで覚えやすく、利用者の記憶に残りやすい要素を持っていますが、印象的なシンボルやブランドカラーも一体となって、新企業ブランドの認知度向上に大きく寄与しました。

「ラクス」のブランディング

記憶に残るロゴづくりの成功ポイント

視認性と簡潔さ

情報量が多すぎると記憶に残りづらくなります。ロゴは一目で意味が伝わる設計が必要です。特に、多様な媒体で活用される現代では、縮小表示でも視認性を保てる構造や、形状の明快さが重要になります。瞬時に「らしさ」を感じ取れることが、記憶の入口となります。

意味づけとストーリー

ロゴに企業理念や文化を込めることで、人はその「意味」を記憶します。ただし、ストーリーが独りよがりにならないよう、他者の視点を入れることが重要です。語られる背景や思想が共感を呼ぶことで、ロゴは単なるデザインから「伝わるシンボル」へと変わっていきます。

色と形の心理効果の活用

色や形が人に与える印象を理解し、自社に適したトーン&マナーを明確にします。たとえば、信頼感や安心感を重視するなら寒色系、活発さや親しみやすさを伝えるなら暖色系、といったように、心理的な作用を踏まえた選択が重要です。形状においても、尖りや丸みといったディテールが印象を左右します。

一貫性ある活用

ロゴはつくって終わりではなく、名刺、Webサイト、営業資料、ユニフォームなど、あらゆる接点で統一的に使用することで、印象を固定化できます。接点ごとに表現がぶれると、どれが本来の姿なのか認識されにくくなります。一貫した使用を通じて、時間とともにブランドとの結びつきが強化されていきます。

まとめ ―記憶に残るロゴは「戦略資産」である

ロゴは単なるデザインではなく、戦略的な資産です。特に中堅・中小企業にとっては、認知を獲得し、信頼を醸成し、価値を伝えるための最初の一歩となる存在です。

人の記憶に残るロゴを設計することは、顧客の心にブランドを「定着」させることに他なりません。心理学的な知見を活用し、自社の理念や魅力を視覚的に整理することで、限られたマーケティング資源の中でも高い効果を得ることができます。

本記事が、貴社のロゴづくり・ブランドづくりの一助となれば幸いです。

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この記事・レポートについて

この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

この記事・レポートについて
そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。お問い合わせフォームお問い合わせフォーム