ブランディングの考え方

なぜブランディング会社は「戦略」から考えるのか?

2025年3月24日9分読み

なぜブランディング会社は「戦略」から考えるのか?

エグゼクティブサマリー

中堅・中小企業においてブランディングの重要性はますます高まっています。しかし、多くの企業は「ロゴを変えればブランドが強くなる」「広告を増やせば認知が広がる」といった表面的な施策に目を向けがちです。ブランディング会社が「戦略」から考えるのは、単なるデザインやプロモーションではなく、企業の中長期的な成長を見据えた本質的な価値を構築するためです。本レポートでは、戦略的なブランディングの重要性を具体的な事例を交えながら解説し、実際に取り組む際のポイントを提言します。

戦略なきブランディングの落とし穴

多くの企業が直面するのは、「施策は打っているのに成果が出ない」という問題です。例えば、

  • 競合との差別化が不明瞭なままロゴやスローガンを変更
  • 商品やサービスの強みが伝わらない広告キャンペーンの実施
  • 社内の理解が不足し、従業員のブランド意識が低い

これらの問題は、ブランド戦略が不十分なまま施策を進めた結果生じます。ブランディングとは単なる外見の変更ではなく、「市場におけるポジショニング」と「企業の価値の最大化」を目的とするものです。

ブランド戦略の必要性

企業の持続的成長を支えるブランド

ブランド戦略がある企業は、短期的な施策に左右されず、継続的に市場価値を向上させることができます。戦略的ブランディングの特徴として、

  • 一貫したブランドメッセージが顧客の信頼を獲得
  • ブランドの価値を活かした価格戦略で利益率を向上
  • 従業員のブランド理解が深まり、企業文化が強化

などが挙げられます。

短期施策 vs. 戦略的ブランディング

広告やキャンペーンといった短期施策は、即時的な認知向上には役立ちますが、それだけではブランドの資産にはなりません。戦略的ブランディングとは、

 1. 企業の存在意義(パーパス)を明確にする
 2. 競争優位性を分析し、適切な市場ポジションを定める
 3. 顧客との長期的な関係を築く

というプロセスを経て、持続的な価値を生み出します。

「戦略」からブランディングを考える具体的な事例

中川政七商店のブランド戦略による成長

発端

中川政七商店は、奈良県で300年以上の歴史を持つ老舗企業です。元々は手織りの麻織物を中心に扱うメーカーでしたが、伝統工芸品の市場縮小により、売上の伸び悩みや将来の不安を抱えていました。特に、同社が主力としていた工芸品は一部の愛好家にしか届かず、大衆市場での認知度が低いという課題がありました。このままでは価格競争に巻き込まれ、ブランド価値を維持できない可能性が高まっていました。

取り組み

同社は単なる商品開発や広告施策ではなく、「ブランド戦略」の視点から根本的な改革に着手しました。まず、「日本の工芸を元気にする!」というブランドのアイデンティティを明確に掲げました。そのうえで、伝統工芸の価値を現代のライフスタイルに適した形で伝えることを決定し、商品デザインの刷新やパッケージデザインの統一、百貨店や直営店を活用した販路拡大を実施しました。さらに、工芸品に関するストーリーを積極的に発信し、単なる商品の売買ではなく、文化的な価値を提供するブランドへと進化しました。

成果

このブランド戦略によって、同社の商品は単なる伝統工芸品ではなく、「現代の暮らしに溶け込む価値のあるアイテム」として認知されるようになりました。その結果、百貨店や直営店での売上が大幅に伸び、ブランドとしての知名度も向上。従来の顧客層に加え、若年層や都市部の消費者にも広く受け入れられるようになりました。さらに、この成功を受けて他の伝統工芸企業とも連携し、業界全体の活性化にも貢献しました。

八百鮮の採用ブランディングによる競争力向上

発端

八百鮮は、大阪と愛知で生鮮食品の販売を手掛ける企業です。価格競争が激しいスーパーマーケット業界において、高品質な野菜、魚、肉をリーズナブルに提供することを強みとしていました。しかし、成長に伴い人材不足が深刻化し、特に若い世代の応募が少ないことが課題となっていました。単なる求人広告では求職者の関心を引けず、競争力のある人材確保が困難な状況に陥っていました。

取り組み

八百鮮は、採用戦略をブランディングの一環として捉え、企業の魅力を再定義することにしました。まず、企業の価値観や働き方を明確に伝えるために、採用サイトのデザインとコンテンツを一新。社員のインタビューや、実際の仕事風景を伝える動画コンテンツを制作し、求職者に企業文化を具体的に伝えました。また、SNSを活用し、社風や職場の雰囲気をリアルタイムで発信。従来の八百屋のイメージを覆すような、スタイリッシュなブランディングを採用しました。

成果

この戦略の結果、八百鮮の求人応募数は従来の5倍に増加し、特に若年層の関心を引くことに成功しました。応募者の質も向上し、優秀な人材を確保することができました。これにより、店舗運営の安定化と、さらなる事業拡大の基盤が整いました。従来の「求人広告を出すだけ」の方法では実現できなかった成果が、ブランド戦略の導入によって達成されたのです。

戦略的ブランディングの実践方法

企業がまず取り組むべきこと

(1)現状分析と課題の特定

ブランディングの第一歩は、企業の現状を正しく把握することです。市場環境、競合とのポジショニング、顧客のニーズ、社内のブランド認識など、多角的な視点から分析を行います。特に、ブランドの強みと弱みを明確にし、どのような課題があるのかを特定することが重要です。

(2)ブランド戦略の設計

ブランド戦略の設計は、単なるマーケティング施策の積み重ねではなく、企業の成長戦略と密接に結びついたものである必要があります。ここでは、ブランドを市場にどのように位置づけ、どのように認知され、どのように成長させていくかを決定します。

特に重要なのはブランドの軸となるアイデンティティです。これは単なるスローガンではなく、企業の価値観、提供価値、そして顧客にとっての意義を含むものです。例えば、「日本の工芸を元気にする」という中川政七商店のブランドアイデンティティは、単なる製品販売を超えた文化的なメッセージを持っています。

  • ブランドのポジショニングを確立する
  • ブランドのアイデンティティを策定する
  • ブランドのビジュアルアイデンティティを定義する
  • ブランド体験を設計する

(3)実行計画の策定と施策展開

戦略を実際の施策に落とし込み、段階的に展開します。ブランドのビジュアルやメッセージの統一、商品開発、採用ブランディング、デジタル戦略など、多岐にわたる施策が含まれます。短期的な広告施策だけでなく、長期的なブランド価値向上を見据えた実行計画を立てることが重要です。

(4)効果測定と改善

ブランディング施策は実行して終わりではなく、継続的な評価と改善が必要です。ブランド認知度、顧客満足度、売上への影響、従業員のエンゲージメントなど、定量・定性の両面から評価を行い、必要に応じて調整を加えていきます。

(5)適切なパートナーの活用

自社だけでブランディングを進めるのが難しい場合、専門のブランディング会社に協力を仰ぐことも有効です。外部の視点を取り入れることで、より客観的かつ戦略的なブランド構築が可能になります。

社内のブランド浸透の重要性

(1)経営陣による主導が大切

ブランドは現場の社員だけでなく、経営陣が主導することで初めて組織全体に浸透します。経営層がブランドの価値を理解し、戦略に落とし込まなければ、社内でのブランド意識は希薄になり、短期的なマーケティング施策に留まってしまいます。

(2)企業文化として、いかにブランドを根付かせるか

ブランドの浸透は一過性の施策ではなく、企業文化として根付かせることが重要です。そのためには、社員一人ひとりがブランドの価値を日常業務で意識し、実践できる環境を整える必要があります。

(3)従業員によるブランド理解と、顧客対応への活用

ブランドの価値を発信するのは、広告や製品だけではありません。顧客と直接接する従業員の言動や対応こそが、ブランド体験を形作る最も重要な要素の一つです。特に、営業・カスタマーサポート・店舗スタッフなど、顧客接点の多い部門では、ブランドの理解がそのまま顧客満足度に直結します。

(4)結果的に社員エンゲージメントが高まる

ブランドの社内浸透が進むと、社員が企業のブランドに誇りを持ち、仕事へのモチベーションが向上するという効果も生まれます。社員が自社のブランド価値に共感し、それを日々の業務に反映することで、組織全体の一体感が高まり、離職率の低下や生産性向上にもつながります。

まとめ

これまでの解説や紹介した事例からも分かるように、ブランディングは単なるデザインや広告の問題ではなく、企業戦略そのものと深く結びついています。中川政七商店はターゲットと提供価値を明確化することで価格競争を回避し、八百鮮は採用戦略を通じて人材確保に成功しました。いずれのケースも、単発の施策だけでは実現できない成果であり、戦略的なアプローチなしには成立しえなかったものです。

ブランディング会社が「戦略」から考えるのは、このように長期的な成果を生み出すためであり、短期的な施策では解決できない本質的な課題に向き合うためです。企業がブランディングを成功させるためには、企業戦略との一貫性を持たせ、ターゲットを深く理解し、社内外にブランドを浸透させることが不可欠です。

関連情報

  • ブランディングのナレッジ ブランディングに欠かせない基礎情報ブランディングのナレッジ ブランディングに欠かせない基礎情報
  • ブランドライブラリー ブランド・ブランディングの基本ガイドブランドライブラリー ブランド・ブランディングの基本ガイド
  • ブランディングBooks ブランディングに役立つ書籍の紹介ブランディングBooks ブランディングに役立つ書籍の紹介
  • ブランドネームの由来 ブランドネームの意味と物語ブランドネームの由来 ブランドネームの意味と物語
  • ブランドメッセージ ブランドメッセージの背後にある戦略とは?ブランドメッセージ ブランドメッセージの背後にある戦略とは?
  • 記事・レポート 経営者様・ご担当者様向けコンテンツ記事・レポート 経営者様・ご担当者様向けコンテンツ

この記事・レポートについて

この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

この記事・レポートについて
そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。お問い合わせフォームお問い合わせフォーム