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「ブランドが語る時代」──コンテンツマーケティング成功の秘訣
2025年11月28日8分読み


エグゼクティブサマリー
かつてブランドは、広告を通じて語られていました。ブランドのメッセージは企業から生活者へと一方的に届けられ、その伝達量こそが影響力の尺度でした。しかし現代は、「ブランドそのものが、自らの声で語る」時代です。
生活者が自ら情報にアクセスし、企業の姿勢や価値観を読み取る。検索やSNS、動画、採用サイトやニュースリリースまで、企業が語るあらゆる言葉が“ブランド体験の一部”となっています。この変化は単なるマーケティング手法の変化ではなく、企業経営の“表現力”そのものの転換です。
本レポートでは、ブランドが「語る」とは何か、なぜ今それが重要なのか、そして日本企業の実践事例を通じて、コンテンツマーケティングの本質的な可能性を考察します。
「ブランドが語る」とは何を意味するのか
「ブランドが語る」とは、理念や理想をただ宣言するのではなく、行動や表現を通じて存在の意義や価値を生活者に伝えることに他なりません。企業理念、採用ページ、note、SNS、動画──それらはすべて企業の“語り”の断片で、その“語り”をもとに生活者自らがブランドを“解釈”します。
重要なのは、そこに一貫した思想と誠実さがあるかどうか。理念と行動が一致しているとき、ブランドの“語り”は信頼として受け止められます。つまり語る力を磨くことで、ブランドの戦略的な優位性が生み出されます。
なぜ今、「ブランドが語る時代」なのか
その背景には、三つの社会的な構造変化があります。
第一に、情報主権が生活者に移ったこと。広告ではなく検索やSNSを通じ、生活者が自らブランドを見つけ、比較し、評価する時代となったのです。つまり、生活者がブランドを正しく理解するには、企業自身が価値や意義を語ることが不可欠なのです。
第二に、企業の価値観が可視化されるようになったこと。生活者も就職希望者も、理念や社会貢献を重視します。企業は「何を提供するか」より「なぜそれを提供するか」で選ばれる時代となっています。
第三に、企業活動のあらゆる発信が、一つのブランド体験として統合されつつあること。採用、広報、マーケティング、経営メッセージ――それぞれが別領域のメッセージとしてではなく、同じブランドの“語り”として社会に届いているのです。
こうした変化のなかで、コンテンツマーケティングはもはや施策の一つではなく、企業がどのように社会と関わり、何を信じて行動しているかを映し出す企業活動となりました。「ブランドが語る」ことは、社会における企業の存在意義を示す重要なアプローチなのです。
“ブランドが語る”コンテンツマーケティングの実践事例
“ブランドが語る”コンテンツマーケティングでファンを増やしていくには、いくつか意識しておきたいポイントがあります。重要なのは、単なる情報発信ではなく「関係性の構築」にSNSを活用するという視点に他なりません。そのために参考となる3つの事例をご紹介します。
事例❶ 中川政七商店──伝統を「語り直す」
創業1716年の中川政七商店は、工芸ブランドの会社という枠組みを超えて飛躍するために、「日本の工芸を元気にする」というミッションを掲げ、自らの言葉での発信を続けています。代表・中川淳氏による発信や、オウンドメディア「つくり手を訪ねて」や「産地探報」「ひとを訪ねて」では、職人の姿や地域文化を紹介しながら、ブランドの哲学を生活者に伝えています。

この取り組みの特徴は、「伝統の守り方を語る」のではなく、「伝統を未来にどうつなぐかを語る」点にあります。自社を主語とした宣伝ではなく、工芸業界全体を主語にした語り。結果として同社のブランドは、単なる伝統工芸の担い手ではなく、「工芸文化の再生を牽引する存在」としての独自性を確立しました。
事例❷カゴメ株式会社──社会との関係性を語る
カゴメは「トマトの会社から、野菜の会社へ」というブランドビジョンを掲げ、全社の発信をその方向に統一しています。公式 YouTube チャンネル(@KAGOMEJP)では、農場や工場、栄養士などの“現場の声”を紹介し、「野菜のチカラを社会にどう活かすか」というテーマを動画コンテンツとして継続的に発信しています。またSNSを活用した「野菜をとろうキャンペーン」では「#野菜が好きだ」ハッシュタグによる投稿促進や、8月1日の「野菜の日」に合わせたイベント「野菜をとろうフォーラム」など、生活者参加型の発信を展開しています。

さらに、ファンコミュニティサイト「&KAGOME」では、会員向けの工場見学や座談会、野菜の収穫体験といったイベントを通じて、顧客との対話を重視した関係性構築を図っています。

このように、動画・SNS・イベントという複数チャネルを通じて「野菜を軸とした価値観」を発信し続けることで、カゴメは「野菜を通じて食文化を育む企業」としての共感と信頼を着実に積み上げています。
事例❸ オルビス──美意識を語る
オルビスは、企業の哲学を「ここちを美しく」という一言に凝縮させています。広告、店舗空間、Webデザイン、採用メッセージ――それらすべての表現に“ここちを美しく”を通底させています。

同社の公式メディアでは、化粧品の機能ではなく、ライフスタイルや心の豊かさを中心に発信しています。価値観を伝える語りが読者に共感を生み、同時にブランドのトーンや世界観を形成し、企業への信頼を育んでいます。
コンテンツマーケティングで成果を生むために
コンテンツマーケティングで成果を生むためには、以下のような共通の原則があります。
原則① 「何を語るか」を定める
コンテンツマーケティングの出発点は「何を語るか」を定めること。理念やMVVを基軸に、日常で使える行動の言葉へと翻訳することで、発信に一貫した軸が生まれます。
原則② “成果”より“誠実さ”を基準に語る
PVやSEOも重要ですが、コンテンツマーケティングの真の目的は共感の形成です。共感によって得られる信頼は、数値を超えてブランドの長期資産となります。
原則③ 社員を、語り手として育てる
トップが語るだけでなく、社員一人ひとりが自分の言葉でブランドを語る状態が理想です。内部で自発的に生まれる語りこそ、説得力を持ちます。
原則④ 一貫性を保つ
一貫性とは、同じ表現を繰り返すことではなく、あらゆる発信に共通する“考えの軸”を持つことです。理念と行動と表現がつながれば、ブランドへの共感・信頼は高まります。
まとめ ―コンテンツマーケティングを成功させるために―
コンテンツマーケティングの本質は、ブランドの理念を社会へ発信し、共感を得て、信頼を積み上げることにあります。その基点となるのは、理念に根ざした「ブランドとして何を語るか」の明確化です。
誠実さを基準に語り、社員一人ひとりがその思想を自分の言葉で伝えることで、メッセージは単なる広報活動を超え、組織全体の一貫した対話へと進化します。こうした積み重ねが、共感を生み、ブランドを持続的に成長させる原動力となるのです。
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この記事・レポートについて
この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

























