理念・MVV

「共感されるMVV」と「形だけのMVV」の違いとは?

2025年6月1日6分読み

「共感されるMVV」と「形だけのMVV」の違いとは?

MVVとは、単なる企業紹介の飾りではなく、企業が社会に対してどのような価値を提供するのかを明示し、組織の内外に向けてその存在意義を発信するものです。Missionは「企業の使命」、Visionは「企業のあるべき姿」、Valueは「その実現に向けて大切にする考え方や行動基準」を示します。これら三つが相互に連動し、自社の活動全体に一貫性をもたらすことで、企業としての姿勢が明確になります。

MVVが機能している組織では、社員は自らの業務が社会的な意義とつながっていることを理解し、目的意識をもって行動することができます。また、社外に対しても企業の価値観や方向性を伝える手がかりとなり、信頼形成やブランドの確立にもつながります。

エグゼクティブサマリー

MVV(Mission・Vision・Value)の策定に取り組む企業は増えていますが、内容が立派でも現場に浸透せず、形骸化してしまうケースも少なくありません。一方で、MVVが社員の共感を得て日々の行動を支え、組織を一体化させている企業も存在します。

本レポートでは、「共感されるMVV」と「形だけのMVV」の違いを明らかにし、大企業だけでなく中堅・中小企業においても実践可能な成功のポイントを整理します。なぜMVV の本質的な意味とは? MVVが形だけになってしまう理由とは? どうすればMVVに力が宿るのか? その背景やパターンを踏まえながら、経営者や担当者が「自社にとって意味のあるMVV」を見極めるための視点を提供します。

MVVの本質的な意味

MVVとは、単なる企業紹介の飾りではなく、企業が社会に対してどのような価値を提供するのかを明示し、組織の内外に向けてその存在意義を発信するものです。Missionは「企業の使命」、Visionは「企業のあるべき姿」、Valueは「その実現に向けて大切にする考え方や行動基準」を示します。これら三つが相互に連動し、自社の活動全体に一貫性をもたらすことで、企業としての姿勢が明確になります。

MVVが機能している組織では、社員は自らの業務が社会的な意義とつながっていることを理解し、目的意識をもって行動することができます。また、社外に対しても企業の価値観や方向性を伝える手がかりとなり、信頼形成やブランドの確立にもつながります。

特に中堅・中小企業においては、経営層と現場の距離が近い分、MVVが実際の意思決定や日常の業務に与える影響が非常に大きくなります。だからこそ、「掲げて終わり」ではなく、実際の行動や判断に結びついているかが問われます。

形だけのMVVが生まれてしまう背景

共感されない、形だけのMVVが生まれてしまう背景には、いくつかの要因があります。その主要なものを、以下に3つご紹介します。

①「外部の目」を意識しすぎてしまう

ひとつは「外部の目」を意識しすぎてしまうことです。採用ブランディングやIR資料での見栄えを優先するあまり、自社の文化や実態との接続が弱くなってしまいます。そのようなMVVは、社員にとって「誰のための言葉なのか分からない」と感じられ、距離のあるものになります。

経営者の想いが独りよがりになってしまう

もうひとつは、経営者の想いが独りよがりになってしまうことです。トップが情熱をもってMVVを掲げても、現場の実感を欠いた一方的な内容では共感は得られません。社員から「いいことは言っているが、実際の会社の姿とは乖離している」と見なされれば、かえってモチベーションを下げる結果にもなりかねません。

③ 策定後の運用が不十分

さらに、策定後の運用が不十分なことも重要な要因です。MVVは掲げただけでは意味がなく、日常のコミュニケーションや制度設計、評価の仕組みにまで落とし込む必要があります。ここが曖昧なままでは、MVVはやがて意識されなくなり、形骸化していきます。

事例 ─MVVの策定における2つの典型パターン

「共感されるMVV」と「形だけのMVV」について、それぞれが策定される典型パターンから、その違いを見てみましょう。

「共感されるMVV」策定の典型パターン

​成長著しいIT企業のA社は、策定プロセスに社員を参加させることを前提に、経験豊富なブランディング会社にMVV策定を依頼しました。そして社長が委員長となる委員会を立ち上げました。委員会では、社長と各委員、各委員と社員による綿密な意見交換を通して社員の声を丁寧に掘り下げ、B社ならではの社会的存在価値を明確化。その価値を基盤として、最終的にMVVを言語化しました。

その結果、多くの社員が「自分たちの言葉だ」と共感できるMVVに仕上がっただけでなく、経営層、管理職、一般社員の風通し・連携が良くなるという、新たな組織文化も生まれました。

朝礼や社長メッセージ、社内報、社外ニュースリリース等での実直な発信を通じて、B社のMVVは日常業務に浸透し、組織の一体感と行動指針の基盤となっています。

「形だけのMVV」策定の典型パターン

中堅企業の製造業B社。創立50周年を迎えるにあたり、大手ブランディング会社の支援を受け、多額の費用をかけて企業ロゴとMVVを策定しました。完成した企業ロゴとミッション・ビジョン・バリューは、洗練されたデザインと言葉で構成されていました。しかし、そこに描かれていたのは、企業の実態とはかけ離れた理想的な姿であり、社員にとっては具体的な指針が見えづらいものでした。

また、策定プロセスには現場の社員がほとんど関わっておらず、完成後の説明会でもスライドを一方的に読み上げるにとどまりました。社員の間では「自分の会社ではないみたい」「また形だけの取り組みだ」といった不満の声が上がり、企業ホームページでMVVは掲げられたものの、日常業務の中で語られることはなくなっていきました。

共感されるMVVづくりのポイント

共感されるMVVをつくるためには、重要なポイントが存在します。そのいくつかをご紹介します。

「社会的存在価値の明確化」

共感されるMVVづくりの出発点は、「私たちは何のために存在するのか」という社会的な存在意義の明確化です。この軸があってこそ、MVV全体に芯が通り、社員にとっても「果たすべき役割」「目指す姿」が実感できるようになります。社員そして社外の共感を得るためには、まず自らの“Why”を腹落ちさせることが大切です。

「策定プロセスへの社員参加」

共感されるMVVづくりで重視すべきは「策定プロセスへの社員参加」です。社員の声を反映させることで、内容がリアルなものになり、同時に自分ごととして捉えやすくなります。個別インタビュー、グループインタビュー、社内ワークセッション、社員アンケートなど、その会社に合った参加アプローチを選択します。

「実際の経営判断や制度設計との連動」

また「実際の経営判断や制度設計との連動」も重要です。たとえばValueで「挑戦」を掲げるなら、失敗を恐れずに挑戦した社員を評価する仕組みを設ける必要があります。そうでなければ、言葉だけが浮いてしまい、逆効果になることもあります。

「継続的な発信と体現」

そして「継続的な発信と体現」も欠かせません。経営者自らが日常的にMVVに言及し、それに沿った行動をとることで、社員の受け止め方も変わっていきます。MVVを一貫して語り、示すことが、最も強い浸透施策になります。たとえば、社内会議や人事評価の場でMVVに基づく意思決定の理由を明示したり、社内報・メルマガ・全社集会などのコミュニケーション機会で繰り返し取り上げることも効果的です。

「策定後の運用フェーズを見越した設計」

忘れていけないのが「策定後の運用フェーズを見越した設計」です。MVVの文言だけでなく、それをどう共有し、どう体験させ、どう活用していくかまで視野に入れておくことが、絵に描いた餅となることの回避につながります。

まとめ

MVVは、企業の存在意義を明確にし、事業活動を推進していくための基盤です。組織の進むべき方向を内外に示し、日々の意思決定や行動を支える“実効性のある軸”として機能することが、本来の役割といえるでしょう。そこに芯の通ったメッセージがあるからこそ、人の心を動かし、共感を生むのです。一方、見栄えや体裁を重視するあまりに企業の実態とかけ離れてしまったMVVは、社員にとって自分ごとにならず、やがて語られなくなってしまいます。

「共感されるMVV」と「形だけのMVV」を分けるのは、“存在意義の確かさ”と“現場との接続”があるかどうかです。策定のプロセスから社内への浸透、その後の制度・評価との連動までを一貫させることが、MVVに力を宿らせる鍵となります。MVVは、策定すること自体を目的とするものではありません。企業のあるべき姿を明らかにし、組織の活動を一つの方向に束ねていく。そのための実践的な企業基盤なのです。

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    この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

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