実践的ブランディング
ブランディングはコストではない。投資対効果を最大化する方法
2025年4月10日11分読み


エグゼクティブサマリー
現代のビジネス環境において、企業の成長と競争力の強化には「ブランディング」の取り組みが欠かせません。しかしながら、多くの企業では依然としてブランディングが「コスト」として扱われ、経営上の優先度が低く見積もられているのが現状です。
本レポートでは、ブランディングが単なる費用ではなく、将来の成長や企業価値の向上に寄与する「投資」として捉えるべき理由を、専門的な視点からわかりやすく解説します。加えて、投資対効果を高めるための実践的な考え方や、日本の中小企業における取り組み事例も紹介しながら、成功につながるポイントを整理します。
なぜブランディングは「コスト」ではないのか?
多くの企業では、ブランディングにかかる費用を経費として処理し、「コスト」とみなす傾向があります。確かに、広告宣伝費やロゴ制作費用など、一時的に支出が発生する点ではコストの側面もあります。しかし、ブランディングは単なる費用消化とは根本的に異なります。
経営戦略の視点:「未来への投資」としてのブランディング
そもそも「コスト」と「投資」の違いは何でしょうか。コストとは、主に日々の事業活動で発生する費用であり、直接的に利益を生み出すことが期待されない支出です。一方、投資は将来の収益獲得や企業価値の向上を目的とした支出であり、長期的な視点で効果が見込まれます。
ブランディングは企業の価値や信頼を築く活動であり、顧客から選ばれ続ける基盤づくりに直結します。そのため、単なる「費用」ではなく、「将来の利益を生み出すための重要な投資」として位置づけるべきなのです。
会計上の視点:P/LとB/Sの違いが示すもの
また企業によって、ブランディングにかかる費用の会計処理に違いがあります。多くの場合、ブランディング関連費用は販管費として損益計算書(P/L)に計上され、発生した期の「コスト」として扱われます。しかし、一定の条件を満たす場合には、これらの支出を無形資産として貸借対照表(B/S)に計上することも可能です。
B/Sに資産として計上される場合、それは単なる消費的な支出ではなく、将来的に収益獲得に寄与する「投資」として会計上も認められていることになります。つまり、ブランディング費用をB/Sに組み込むことは、企業がこれを長期的な価値創造の源泉と見なしている証拠ともいえます。 このような会計処理の違いは、ブランディングに対する経営者の考え方や企業の経営戦略を反映しています。コストと見るか、投資と見るかで、意思決定や資金配分の優先順位も変わってくるため、この認識の違いが企業の成長に大きく影響しま
ブランディングで投資対効果を最大化する方法
ブランディングを単なる「コスト」ではなく、将来の利益を生み出す「投資」として機能させるには、設計から運用、評価に至るまで、戦略的にマネジメントしていく必要があります。そのためには、以下のような高度な視点からの取り組みが重要です。
1. ブランド資産の可視化と中長期戦略への統合
ブランドを企業資産の一部ととらえ、その価値を構造的に捉える視点が求められます。たとえば「ブランド認知」「想起率」「顧客のロイヤルティ」などを定期的に数値化し、ブランド資産として評価することで、定性的な活動の成果を可視化できます。
加えて、こうしたブランド資産の蓄積が、将来的な価格プレミアム・採用力の向上・営業効率の改善などに波及することを、中長期の経営計画に組み込むことが必要です。
2. 社内外を貫くブランドアイデンティティの徹底
経営戦略とブランド戦略を整合させるブランドアイデンティティは、投資対効果を最大化するうえで欠かせません。表層的な「ロゴの統一」や「トーン&マナーの統一」にとどまらず、従業員の行動や意思決定の基準までブランドに連動させることで、全社的な一貫性と差別化を同時に実現できます。
たとえば、ブランドの約束(ブランド・プロミス)が営業現場やカスタマーサポート、採用面接の現場でもブレずに実践されているかを定期的にレビューし、外部体験と内部体験の乖離を最小化していくことが求められます。
3. 非財務指標を組み込んだKPI設計とマネジメント
短期的な売上や利益だけではブランディングの本質的な価値は評価できません。たとえば、NPS(ネット・プロモーター・スコア)やeNPS(従業員ロイヤルティ)、ブランドリフト調査、Webサイトのエンゲージメント指標など、非財務指標を戦略的にKPIに組み込み、継続的にトラッキングする体制が重要です。
そのうえで、これらの指標がどのように最終的な収益性やLTV(顧客生涯価値)に寄与しているのかを定期的に分析し、経営層の意思決定にも活用できる形でレポーティングを行います。
具体的な事例:日本の中小企業での成功例
ここでは、実際にブランディングを投資として捉え、成果をあげた日本の中小企業の事例を紹介します。
事例❶:「社員参画型ブランディングによる企業価値向上」―西精工株式会社(徳島県徳島市)
徳島県に本社を置く西精工株式会社は、精密ねじの製造・販売を行う従業員約200名の中小企業です。同社では、かねてより事業の収益構造を改善するために、製品単価の高いファインパーツ(FP)事業への転換を模索していましたが、その推進においては「社員の意識統一」が大きな壁となっていました。
そこで同社は、「FP70(ファインパーツの売上比率を70%に引き上げる)」という経営ビジョンを掲げ、これを単なるスローガンとしてではなく、社内に深く根づかせる取り組みに着手します。全19チームがそれぞれの立場でチームビジョンを策定し、1年以上にわたって社員一人ひとりとの対話を重ねながら、ビジョンの共有と納得(いわゆる“腹落ち”)を丁寧に進めました。
この活動の成果は、数字としても現れています。従来課題とされていた若手社員の定着率が改善されるとともに、FP事業の売上構成比も着実に上昇。全社的な戦略の理解と行動の一体化により、収益性の高い企業体質へと移行しつつあります。
事例❷:「企業理念の明確化による離職率低下と売上増加」―株式会社現場サポート(鹿児島県鹿児島市)
株式会社現場サポートは、建設業向けのクラウドサービスを開発する、従業員約40名の中小企業です。創業期の急成長の裏で、4年目には離職率が27%に達するという深刻な組織課題を抱えることになりました。
危機感を持った同社は、業務効率や制度設計だけでなく、「働く前提となる価値観」の整備に着目。理念やビジョンを形だけでなく“意味のあるもの”として機能させるため、「価値前提経営」という考え方を導入しました。これは、社員一人ひとりが持つ価値観や人生観に光を当て、それと会社の方向性をすり合わせることを軸としたブランディング的なアプローチです。
こうした取り組みを通じて、社内の対話文化や関係性の質が大きく改善され、社員のエンゲージメントも向上。結果として、労働時間を増やすことなく、直近5年間で売上は約2倍に成長。また、定着率も大幅に改善され、「働きがいのある会社ランキング」(GPTW)でも上位に選出されています。
業績に関係するようには見えない、理念浸透や関係性づくりといったソフト面への投資が、離職防止や売上向上といった明確な成果につながった点は、まさに「ブランディングをコストではなく投資として捉えた好例」と言えるでしょう。
ブランディングの投資対効果最大化する実践モデルSTEP1「コアの明文化とブランド指針の策定」
目的:社内外に一貫性あるブランド体験を生み出すための「軸」を明確化する
- 企業理念やビジョン、存在意義(Why)を言語化
- 自社の強みと顧客への価値提供の本質を整理
- 「ブランド・ステートメント」「タグライン」「ブランド・パーソナリティ」などを短い言葉で定義
- それを踏まえたブランドトーン・行動指針の設定
自社で実施する以外に、外部パートナー(ブランディング会社)とともに、2〜3ヶ月で集中して実施することも選択肢です。
STEP2「接点別のブランド実装」
目的:最も効果的な接点から優先順位をつけてブランドを具現化する
- 顧客接点を棚卸し(営業資料・HP・SNS・対面・採用など)
- ブランドの軸に合っていない接点を特定
- インパクトとコストのバランスを見て、まずは売上貢献が大きい接点から整備(Webサイトの刷新、営業資料の再構成、スタッフの接客言語の見直しなど)
中小企業においては、すべてを一度に変えるのではなく「重点箇所から順に着手」するのが現実的です。
STEP3「簡易的なKPIの設定と効果検証サイクル」
目的:社内外に一貫性あるブランド体験を生み出すための「軸」を明確化する
- 財務指標:受注率・単価・紹介数・LTVなどを設定
- 非財務指標:ブランド認知、NPS、SNSでの反応などを簡易に集計
- 3ヶ月〜半年単位で「何が変わったか」を振り返る
- 小さな成功事例(問い合わせ内容が変わった、紹介が増えたなど)も共有
数値に加え、社員や顧客の声を記録・共有して実感のある効果として伝えることも重要です。
まとめ
ブランディングは企業活動における重要な「投資」であり、単なる「コスト」として扱うべきではないでしょう。即時的なコストと捉えられがちなブランディングですが、実は未来への投資であり、ブランド価値の向上は将来的な収益や企業の競争力強化に直結します。
本レポートでご紹介したポイントを参考に、戦略的かつ持続的なブランドづくりに取り組み、投資対効果を最大化していただければ幸いです。
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この記事・レポートについて
この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。
