実践的ブランディング

“売れるブランド”と“埋もれるブランド”の決定的な違い

2025年2月10日5分読み

“売れるブランド”と“埋もれるブランド”の決定的な違い

1. エグゼクティブサマリー

企業の競争環境が厳しさを増すなかで、ブランドのあり方が業績に与える影響は無視できません。売上が伸びるブランドと市場で埋もれてしまうブランドの違いは、単に広告費や知名度の問題ではなく、より本質的な要因が関係しています。本記事では、“売れるブランド”と“埋もれるブランド”の違いを明らかにし、具体的な事例を交えながら、その成功のポイントを探ります。

2.“売れるブランド”と“埋もれるブランド”の違いとは?

1)明確な価値を持ち、一貫したメッセージを発信している

市場において売れるブランドと埋もれてしまうブランドの違いは、単なる知名度や広告投資額の差ではありません。売れるブランドは、顧客の共感を得る明確な価値を持ち、それを一貫したメッセージで伝え続けています。一方で、埋もれるブランドは、何を提供しているのかが曖昧で、顧客に強い印象を残せないまま市場の中に埋没してしまいます。

2)競争優位性を具体的に伝えている

たとえば、売れるブランドは自社の強みを的確に理解し、それを顧客の課題解決につなげる形で訴求します。単に「高品質」や「低価格」といった一般的な価値を掲げるのではなく、「なぜその品質が重要なのか」「どのように競合と異なるのか」を明確に伝えることで、顧客の選択基準に強く影響を与えるのです。

3)ターゲットを明確に定め、継続的に接触できている

また、売れるブランドはターゲットを明確に定め、適切なチャネルで継続的に接触する戦略を持っています。単発の広告施策ではなく、ブランドのストーリーや世界観を統一しながら、顧客との接点を増やしていくことで、認知から信頼、購買へと自然につなげる仕組みを作ります。一方で、埋もれるブランドはターゲット設定が曖昧で、断片的な施策に終始し、結果として市場での存在感を築くことができません。

4)顧客との関係を長期的に築いている

さらに、売れるブランドは顧客との関係性を重視し、購入後の体験にもこだわります。製品やサービスの提供だけでなく、購入後のフォローやブランドとの接点を通じて、顧客との継続的な関係を築くことができるブランドは、リピーターを生み出し、長期的な成長につなげることができます。対照的に、埋もれるブランドは購入の瞬間をゴールと考え、その後の関係構築を怠ることで、顧客の記憶に残りにくくなります。

このように、売れるブランドと埋もれるブランドの違いは、単なる露出量や価格競争の問題ではなく、価値の伝え方、ターゲット設定、顧客との関係構築といった、ブランドの本質的な戦略にあると言えます。

3. “売れるブランド”の具体的な事例

YANAGI DESIGN

柳宗理のデザインは、日用品や調理器具を中心に非常に高い評価を受けており、その製品は「美しさ」と「使いやすさ」を兼ね備えています。柳宗理のデザイン哲学に基づいた製品は、機能性だけでなく、視覚的にも魅力的で、消費者に深く支持されています。そのデザインは、シンプルでありながら洗練され、どの家庭にも調和し、長く使い続けられることを重視しています。

①ブランドビジョンの明確化と浸透

「使う人を思いやるデザイン」という表現は、柳宗理自身が明確に打ち出したスローガンではないものの、彼のデザイン哲学を端的に表すものとして広く認識されています。柳のデザインは、単なる装飾ではなく、機能と美を一体化させることに重点を置いており、その思想は柳工業デザイン研究会を通じて現在も受け継がれています。製品のフォルムや素材の選定、製造プロセスにおいても、「使いやすさ」と「美しさ」を両立させる姿勢が一貫しており、これが消費者の共感を生み、ブランドとしての強固な価値につながっています。

②差別化戦略の構築と価値の伝達

柳宗理のデザインは、「使いやすさ」と「機能美」を重視し、流行に左右されない普遍的な価値を持っています。多くのブランドが市場の変化に埋もれる中、柳のYANAGI DESIGN は長年支持され続ける“売れるブランド”として確立されています。

また、製品そのものがブランドの哲学を体現しており、消費者に直感的に価値が伝わる点も強みです。この一貫性が、他製品との差別化を生み、売れ続ける理由となっています。

③顧客接点での一貫性

柳宗理のデザインは、商品そのものの造形からパッケージ、展示、出版物などに至るまで一貫性が保たれています。特に、プロダクト自体が広告の役割を果たすような存在となっており、視覚的な統一感がブランドの認知を高める要素となっています。また、柳工業デザイン研究会による展示会や出版活動を通じて、柳宗理のデザイン哲学が継続的に発信されており、消費者がどの場面で接しても「使いやすさ」と「美しさ」というブランドの本質を感じ取れる仕組みが確立されています。この一貫したブランド体験が、柳宗理のデザインへの信頼を築き、競合との差別化にもつながっています。

コメダ珈琲店

“売れるブランド”となるためには、明確なブランドビジョン、競合との差別化、そして顧客接点での一貫性が不可欠です。コメダ珈琲店は、この3つの要素を高いレベルで実現しています。

①ブランドビジョンの明確化と浸透

コメダ珈琲店が成功した最も大きな要因の一つは、ブランドビジョンの明確化とその浸透です。「くつろぎの空間を提供する」というビジョンは、コメダ珈琲店のアイデンティティとなり、店舗の内装やメニュー、サービスに反映されています。このビジョンが消費者に一貫して提供されることで、訪れるたびに「くつろぎ」の体験が感じられ、リピーターを増加させています。

②差別化戦略の構築と価値の伝達

コメダ珈琲店が「売れるブランド」として成功している理由の一つは、他のカフェチェーンと一線を画す独自の価値の提供にあります。例えば、コメダが提供する「シロノワール」や大きなカップで提供されるコーヒーは、他のカフェでは体験できない独自の価値を提供しています。これにより、顧客にとって「コメダはここでしか味わえない特別な場所」という認識が定着し、消費者の記憶に残りやすくなっています。

③顧客接点での一貫性

売れるブランドは、顧客との接点において常に一貫したメッセージを発信します。コメダ珈琲店は、店舗の雰囲気、商品のクオリティ、接客、さらにはSNSや広告に至るまで、「くつろぎ」を中心に統一された体験を提供しています。この一貫性が、消費者に対してブランドの信頼感を与え、どのチャネルでも「コメダらしさ」を感じさせる要因となっています。顧客がどの接点でコメダに触れても同じ体験が得られることで、顧客は期待が裏切られない安心感を得ることができます。結果として、ブランドへの信頼が積み重なり、継続的な利用につながるのです。

4. “売れるブランド”として成功する3つのポイント

売れるブランドを作るためには、単にブランド戦略を立案するだけでは不十分です。以下の3つのポイントは、マーケティングにおける戦術的な要素にとどまらず、企業の根幹に関わる重要な戦略です。それぞれのポイントを踏まえて具体的に取り組むことで、成功の可能性は高まります。

①ブランドビジョンの明確化と浸透

成功しているブランドは、経営層だけでなく、社員一人ひとりがブランドの方向性を理解し、自分の言葉で語れるようになっています。経営者がブランドの意義を伝え続けることはもちろんですが、それだけでは不十分です。社内のあらゆる場面でブランドの考え方が共有され、日々の業務の中で自然に根付いていくことが、結果としてブランドの一貫性を生み出します。

②顧客接点での一貫性

ブランドは、顧客が接する一つひとつの体験の積み重ねによって形作られます。製品やサービスだけでなく、Webサイトでのコミュニケーションや接客、アフターサポートに至るまで、細かい部分に気を配る企業ほど、顧客からの信頼を得やすくなります。すべてを完璧に整える必要はありません。少なくとも「どこに力を入れるべきか」を明確にし、一つひとつ実行していくことが、長く愛される鍵となります。

③差別化戦略の構築と価値の伝達

他のブランドと異なる強みを打ち出すことは重要ですが、それが一度決まれば終わりというわけではありません。市場環境や顧客の価値観は変化し続けるため、自社の強みをどう伝えるかも変化させる必要があります。長く売れ続けるブランドは、自社の強みを押し付けるのではなく、「今の顧客にとって価値がある形」で伝え続ける工夫を続けています。

5. まとめ

本記事では、“売れるブランド”と“埋もれるブランド”の違いを探る中で、どのようにしてブランドが存在感を持ち続けるのか、その本質を掘り下げました。“売れるブランド”は、単なる商品・サービスの魅力を超えて、顧客の心に響くメッセージや価値観を届けています。そしてその根底には一貫したビジョンがあり、このビジョンが顧客との深いつながりを築く源泉となっています。“売れるブランド”を“売れ続けるブランド”にすることが、企業の持続的成長の要であり、課題でもあるのです。 

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この記事・レポートについて

この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

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そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。お問い合わせフォームお問い合わせフォーム