インナーブランディング

ブランディング会社が教える、社員を動かすブランドメッセージの作り方

2025年11月20日7分読み

ブランディング会社が教える、社員を動かすブランドメッセージの作り方

エグゼクティブサマリー

どれほど立派な理念を掲げても、社員がその意味を自分ごととして捉え、日々の判断や行動に結びつけなければ、ブランドは機能しません。

その鍵を握るのが「ブランドメッセージ」です。ここでいうブランドメッセージとは、企業の存在意義や約束を、社員が理解し、語り、行動に変えられるように翻訳した言葉のこと。経営理念の上位概念に寄り添いながらも、現場の感覚に届く温度をもつメッセージです。つまり「戦略と言葉」の中間にある、実務的な経営ツールといえます。

本レポートでは、社員を動かすブランドメッセージ開発の考え方とプロセスを解説し、国内中小企業の具体的な事例を通じて、社員を動かすブランドメッセージの作り方を紐解いていきます。

社員が動くブランドメッセージとは?

多くの企業が、スローガンや理念の掲示で満足してしまいます。しかし現場の社員にとって、それらはしばしば「経営の言葉」であり、社員(=自分たち)の言葉ではありません。

社員が動くブランドメッセージには、三つの条件があります。第一に「共感性」。理念を語るのではなく、社員の日常感覚や誇りに触れる言葉であること。第二に「具体性」。抽象的な理想ではなく、日々の行動や判断に置き換えられること。そして第三に「自己関連性」。そのメッセージが自分とどう関係するのかが明確であることです。

ブランドメッセージは「心地よく響くコピー」ではなく、「現場を動かす言葉」です。現場を動かすために機能するかどうかが、その成否を分けます。

ブランドメッセージの開発プロセス

社員を動かすブランドメッセージは、感性だけで作るものではありません。戦略的な開発プロセスを経ることによって、組織全体に影響を与えることができます。

ステップ1)現状の理解と社員インサイト

最初に「社員が今、何を感じているか」を正確に把握します。経営層の思いと現場の認識には、往々にしてズレがあります。インタビューやワークショップを通して、社員が会社をどう語るか、何に誇りを感じているかを掘り下げます。このステップから「この会社らしさ」を導くヒントが見えてきます。

ステップ2)ブランドの核を明文化する

次に、ブランドの根幹をなす「存在意義」「約束」「価値観」を整理します。経営理念やMVVの文言をそのまま流用するのではなく、社員が行動できる単位まで具体化するのがポイントです。ここで社員がピンとこない言葉を選ぶと、メッセージが空回りしてします。

ステップ3)ブランドメッセージの開発

ここで初めて言葉づくりに入ります。「共感・具体化・自分ごと」の3条件を意識しながら、いくつかの方向性で試作します。単なるコピーライティングではなく、「どんな行動を促す言葉か」という視点で検証することが大切です。

ステップ4)検証と整合性の確認

ブランドメッセージは経営層だけで完結させてはいけません。現場やミドル層を巻き込み、試しに使ってみる中で調整することが望ましいプロセスです。このプロセスによって、開発したブランドメッセージが“社員が主体的に語れる言葉”へと熟成されます。

社員を動かすブランドメッセージの具体的な事例

事例❶ 株式会社伊那食品工業

日本の寒天市場で約80%のシェアを誇る長野県伊那市に本社を置く寒天メーカー。「いい会社をつくりましょう」という同社の言葉は、ブランドメッセージのあり方をよく示しています。この言葉は理念でもスローガンでもなく、社員一人ひとりの行動を導く“呼びかけ”となっています。

抽象的に見えて、実はどの部署でも行動指針として機能しており、「自分たちの仕事をより良くする」という自発的な動きを生み出しています。

事例❸ ヤッホーブルーイング株式会社

クラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングは、「ビールに味を!人生に幸せを!」というブランドメッセージを掲げています。

社員はこの言葉を単なるスローガンではなく、「どんな顧客体験を生み出すか」を考える起点として使っています。採用活動や社内イベントのトーンまで、このメッセージが判断軸となり、ブランドの一貫性を支えています。

これらの企業に共通しているのは、「メッセージが経営理念の縮図である」と同時に、「社員の言葉で再解釈されている」ということ。つまり、経営の言葉を現場が“自分たちの言葉”に変換できる環境を整えているのです。

ブランドメッセージの浸透・運用に向けて

ブランドメッセージで大切なのは「どう使うか」です。多くの企業はポスターや社内報での掲示に留まり、言葉が日常に根付かないまま終わってしまいます。

特に効果的なのは、経営層が一貫してその言葉を使い続けること。トップが会議やインタビューで自然に口にすることで、メッセージは“生きた言葉”になります。また、ミドル層を中心に「この言葉をどう現場の行動に落とすか」を議論する場を設けることで、言葉が自走し始めます。さらに有効なのが、制度や評価への組み込みです。ブランドメッセージを体現する行動を評価軸の一つに加えることで、社員が日常的に意識するようになります。

まとめ

言葉で社員は変わらない──そう言われることがあります。しかし、正確に言えば「伝え方を誤った言葉では人は動かない」のです。一人ひとりが自分の仕事の意味を再発見し、誇りを持って行動できるようになる。そのための導線を設計するのが、ブランドメッセージづくりの本質です。

社員を動かすブランドメッセージづくりとは、組織そのものを動かす経営だと言っても過言ではありません。ブランドメッセージの言葉を磨くことは、企業の未来を磨くことでもあるのです。

ブランドライブラリーの
最新情報

    この記事・レポートについて

    この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

    この記事・レポートについて

    関連情報

    • ブランディングのナレッジ ブランディングに欠かせない基礎情報ブランディングのナレッジ ブランディングに欠かせない基礎情報
    • ブランドライブラリー ブランド・ブランディングの基本ガイドブランドライブラリー ブランド・ブランディングの基本ガイド
    • ブランディングBooks ブランディングに役立つ書籍の紹介ブランディングBooks ブランディングに役立つ書籍の紹介
    • ブランドネームの由来 ブランドネームの意味と物語ブランドネームの由来 ブランドネームの意味と物語
    • ブランドメッセージ ブランドメッセージの背後にある戦略とは?ブランドメッセージ ブランドメッセージの背後にある戦略とは?
    • 記事・レポート 経営者様・ご担当者様向けコンテンツ記事・レポート 経営者様・ご担当者様向けコンテンツ
    そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。お問い合わせフォームお問い合わせフォーム