変革期のブランド戦略

「過去のブランドイメージ」が足かせになっている企業の解決策

2025年4月28日8分読み

「過去のブランドイメージ」が足かせになっている企業の解決策

エグゼクティブサマリー

多くの企業にとって、かつて築いたブランドイメージが現在の成長の足かせになっているという現実があります。特に、長年にわたり一定の業界内で確立されたポジションを持つ企業ほど、その「古いイメージ」に囚われやすく、新しい挑戦や変革が社内外で受け入れられにくい状況に陥りがちです。

本レポートでは、「過去のブランドイメージ」が企業成長を妨げる構造を解き明かし、そこから抜け出すための実践的なアプローチを、実際の企業事例を交えながら紹介します。経営者やブランド担当者が抱える「変えたいのに変えられない」という悩みに対し、現実的かつ実効性のある視点を提供することを目的としています。

変わる市場と、変われないブランドイメージ

企業のブランドは、長年にわたり蓄積された価値や評判、顧客との関係性を通じて形成されます。これは大きな資産である一方、時に「過去のイメージ」が現在のビジネス展開を阻害する要因にもなります。特に、業界構造や顧客ニーズが急速に変化する現在において、かつての成功体験がむしろ変革の障壁になるケースも珍しくありません。

たとえば、旧来の市場で評価されていた特徴や強みが、現在の価値基準では魅力的に映らない場合、企業側がいくら製品やサービスの中身を進化させても、ターゲットの意識には変化が届きにくくなります。結果として、「良いものをつくっているのに選ばれない」「自社のイメージが古いままで止まっている」という状況に直面するのです。

このような課題に対し、経営者やブランド担当者が取るべきアプローチは、過去のブランド資産を冷静に棚卸しし、それをどう未来につなげ直すかという戦略的な再編集です。

過去のブランドイメージからの変革を阻む三つの壁

過去のブランドイメージが足かせになる背景には、経営者や担当者の意識の中にある「思考の壁」が存在します。これを越えなければ、実質的なブランドの刷新は進みません。

第一の壁「今まではこれでやってこれた」

第一の壁は、「今まではこれでやってこれた」という現状維持の安心感です。これまで一定の成果を挙げ、問題なくビジネスを継続できてきた企業ほど、「なぜ今、ブランドを変える必要があるのか」と感じがちです。しかし、市場環境や顧客の価値観が変化するなかで、変化しないことこそがリスクになりうる時代です。ブランド刷新

第二の壁「ブランドを変える=これまでの歴史を否定することになる」

第二の壁は、「ブランドを変える=これまでの歴史を否定することになる」という思い込みです。しかし、ブランドの刷新は、決して過去を否定する行為ではありません。むしろ、過去を再発見し、新たな文脈で活かすことこそに意味があります。誇るべき歴史や実績を捨てるのではなく、それらをどのように現代的に活かし、新たな価値として再提示するかが鍵となります。

第三の壁「ブランドは外見を変えれば済む」

第三の壁は、「ブランドは外見(ロゴやデザイン)を変えれば済む」という短絡的な発想です。ロゴを変えても、企業としての振る舞いやメッセージが変わらなければ、受け手の印象は更新されません。外見の刷新はきっかけにすぎず、本質はブランドが発する一貫した価値にあります。

こうした障壁にとらわれている限り、ブランド刷新の初手すら踏み出すことができません。課題の本質は、企業の内側にある“意識の壁”にあるとも言えるのです。

ブランドイメージを変革した成功事例

成功事例❶ 「農機メーカーから先進的ブランドへの転換」―ヤンマー

ヤンマー株式会社は、55年間にわたって提供した「ヤン坊マー坊天気予報」などによって、農業機械メーカーとしてのイメージが定着していました。​しかし、同社は建設機械やエネルギー分野など多角的な事業展開を進めており、「農業機械メーカー」「古臭い」というイメージからの脱却が課題となっていました。​

その課題を解決するために、ヤンマーは2012年の創業100周年を機にブランドステートメント「A SUSTAINABLE FUTURE」を掲げるなど、企業全体の姿勢を刷新。ブランドロゴを一新し、プロダクトデザインを抜本的に見直します。そして東京・大阪にブランド発信拠点「YANMAR TOKYO」「YANMAR SYNERGY SQUARE」を設置し、都市型農業や食の未来に関するメッセージを発信するなど、ブランド体験の場を拡張しました。

こうした多面的な取り組みによって、ヤンマーは「先進的産業ブランド」への変換を果たし、国内外での認知度と評価を向上させています。​

成功事例❷ 「老舗スナックメーカーの大胆なイメージ変革」―湖池屋

湖池屋は、1962年に日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した老舗スナックメーカーです。​消費者の嗜好の多様化や市場の変化に対応するため、従来の「子どものおやつ」といったイメージからの脱却が求められていました。

この課題に対応するため、湖池屋は以下のようなリブランディング施策を実施します。

  • コーポレートロゴの刷新
    楕円形のロゴから、家紋をイメージした六角形のロゴに変更し、「老舗」としての信頼感と現代的な洗練さを表現しました。
  • 社内ブランディングの強化;
    ブランドブックの配布や社屋の改装を通じて、社員の意識改革を図り、ブランドイメージの統一を推進しました。
  • 新商品の開発
    「KOIKEYA PRIDE POTATO」や「ピュアポテト」など、高付加価値の商品を開発し、品質へのこだわりを前面に出すことで、従来のイメージからの脱却を図りました。​

これらの取り組みが功を奏し、「KOIKEYA PRIDE POTATO」は発売から1カ月を待たずに品切れが続出するなど、大きな話題を呼びました。こうして湖池屋は「子どものおやつ」という従来のイメージを超え、「品質やデザインにこだわるブランド」として認知されています。

ブランドイメージ変革を成功させるために

成功のポイント その①

「今まではこれでやってこれた」から脱するために、“現状維持の安心感”を“変化の必要性”として捉え直す。

ブランドイメージの刷新において最初に立ちはだかるのは、「現状でも特に困っていない」という無意識の前提です。しかし、目に見える問題がないことと、イメージが的確に伝わっていることは別問題です。市場や顧客の感覚が変化している今、従来のブランドイメージが現在の価値とズレていることも少なくありません。「なぜ今、変えるのか」ではなく、「今のままで、本当に伝わっているのか?」という問いが、ブランド刷新の出発点になります。

成功のポイント その②

「過去の否定」ではなく「再発見と再構築」と。歴史を現在にふさわしいかたちで伝え直す。

ブランドイメージの変革は、企業の歴史や歩みを塗り替えることではありません。むしろ、培ってきた価値を見直し、今の時代にふさわしい表現へと“翻訳”する行為です。変えたいのは「過去」そのものではなく、それがどのように見られているかという“受け止められ方”です。誇るべき実績や企業姿勢を活かしつつ、今の顧客に響くかたちで編集し直す。これがブランド刷新の本質的な視点です。

成功のポイント その③

「外見を変えれば済む」という発想を見直す。ブランドは“言葉と態度”でもイメージされる!

ロゴやデザインを変えることは、ブランドイメージ変革の入り口にすぎません。本質的な変化は、企業がどのような価値を示し、それをどう語るか、どう振る舞うかに表れます。顧客との接点や日々の発信、社内外のコミュニケーションのなかで、一貫性のある価値を伝え続けることが求められます。ブランドとは、見た目だけでなく、言葉と行動によって形成される“総合的な印象”なのです。

まとめ ―過去のブランドイメージを「資産」として未来へつなげるために―

ブランドは、一朝一夕で築かれるものではありません。その意味で「過去のブランドイメージ」は、企業にとって大切な資産である一方、時として現在の成長を妨げる“見えない足かせ”ともなりえます。本レポートで取り上げたように、変革を阻むのは市場ではなく、多くの場合は企業自身の内側にある「思考の壁」です。

だからこそ重要なのは、過去の歴史や価値を否定するのではなく、それらを現代の文脈でどう“翻訳し直すか”という視点です。過去の強みを未来につなげるためには、語り方を変えること、見せ方を再構築すること、そして企業としての振る舞いそのものを問い直すことが求められます。

ブランドイメージの刷新は、単なるビジュアルの更新にとどまらず、企業の意識と行動にまで及ぶ本質的な見直しです。「なぜ変えるのか」ではなく「今のままで、伝わっているか?」という問いから始めることが、次の成長フェーズへの鍵となるのです。

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この記事・レポートについて

この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

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そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。そのブランドに、次の一手を。経営視点のブランディングで、成長を加速させる会社です。お問い合わせフォームお問い合わせフォーム