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“世界観”が命──D2Cブランドのブランディング戦略
2025年4月21日8分読み


1. エグゼクティブサマリー
D2C(Direct to Consumer)とは、流通業者や小売店を介さず、ブランドが自社で企画・製造した商品を自社のチャネルで直接消費者に届けるビジネスモデルです。ECの普及やSNSの浸透によって、比較的小規模な企業でもブランドを立ち上げ、直接ユーザーとつながることが可能になりました。この新しい流通構造は、企業と顧客との距離を縮める一方で、ブランドの本質がこれまで以上に問われることを示しています。
D2Cブランドの成否を分けるのは、商品の品質や価格以上に「世界観」であると言っても過言ではないでしょう。特に競争激しい現代の市場では、単なる機能的価値ではなく、共感やストーリー性、ブランドが持つ独特な美意識や価値観──つまり世界観に惹かれて人々はブランドを選ぶようになっています。
裏を返せば、「商品を売る」発想以上に「世界観を売る」発想が企業側には欠かせません。本レポートでは、世界観を軸にブランドを構築・発信している日本のD2C企業の事例を交えながら、その戦略的意図と実践のポイントを解説します。
2. D2Cブランドにおける“世界観”の重要性
D2Cブランドは、従来の小売や代理店を介したモデルとは異なり、ブランドが直接消費者と接点を持ちます。そのため、ユーザーは商品の詳細以上に、ブランドそのものに強く接することになります。ここで求められるのが、「このブランドの世界観が好き」と思わせる力です。
たとえば、同じTシャツを売るブランドでも、「シンプルな日常に寄り添うミニマルライフ」を掲げるブランドと、「都会的でアクティブなライフスタイル」を訴求するブランドでは、まったく異なる顧客層に響きます。この“違い”をつくるのが、以下のような手段を通じて構築される世界観です。
- ビジュアル;ブランドが視覚的に伝える印象。色使いやロゴデザイン、商品写真、フォントなど、視覚的要素がブランドのイメージを形作ります。
- ストーリーや物語;ブランドが伝える物語や創業の背景。消費者に共感を呼び起こし、ブランドへの感情的なつながりを築く重要な要素です。ブランドの誕生秘話や挑戦を語ることで、消費者との絆が深まります。
- 言葉遣い;ブランドが使う言葉やトーン。親しみやすい言葉や、専門的で高級感のある言葉遣いなど、ターゲット層に合わせた言葉の選び方がブランドの印象に影響を与えます。
- 体験(エクスペリエンス);ブランドが提供する体験。オンラインや実店舗でのサービス、商品を購入する過程、カスタマーサポートの品質など、消費者がブランドに触れる全ての瞬間がブランドの世界観を体現します。
- パッケージ;商品を包むパッケージデザイン。商品の品質やブランドのストーリーを視覚的に伝える手段として重要です。高級感を出すための素材選びや、環境に配慮したパッケージングも注目されます。
D2Cでは、顧客との接点のほとんどがブランドから発信される情報と体験で決まるため、世界観が企業の人格であり、最大の差別化要素となります。
3. D2Cブランディングの具体的な事例
チョコレート専門のD2Cブランド「minimal(ミニマル)」
チョコレート専門のD2Cブランド「minimal」は、「Bean to Bar」の製法にこだわり、カカオ本来の風味を引き出すことをミッションとしています。その世界観は、シンプルで誠実なクラフトマンシップに裏打ちされ、店舗設計やパッケージ、Webサイトのデザイン、コピーライティングなどすべてに統一感があります。

特徴的なのは、「甘いお菓子」というイメージを排し、素材と向き合う“職人の道具”のようなトーンでブランドを構築している点です。店舗では工房のような内装を採用し、スタッフは製法や原産地に精通した説明を行います。世界観が細部まで行き渡ることで、価格以上の価値が生まれています。
アパレルD2Cブランド「KAPOK KNOT(カポックノット)」
「サステナブルで軽やかな未来の服」を掲げるアパレルブランド「KAPOK KNOT」は、木の実であるカポックを素材に使うというユニークな商品開発とともに、「未来志向のライフスタイル提案」を軸とした世界観を展開しています。

商品の機能性や軽さといったスペックよりも、「自然と共に生きる選択」という価値観を発信し、顧客と思想的な共感軸でつながるブランディングを行っています。Webサイトのコピー、商品のタグライン、配送パッケージに至るまで「余白」を感じさせる設計で、ブランドの哲学を体感できる構成です。
アクセサリーD2Cブランド「HARIO Lampwork Factory (ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)」
理化学ガラスメーカーであるHARIOが展開する「HARIO Lampwork Factory」は、職人が一点一点手づくりするアクセサリーをD2Cで展開。ここでの世界観は、「ガラスをまとう、という贅沢な日常」です。

商品は一貫してシンプルかつ繊細なデザインに統一され、映像や写真も透明感や静けさを強調しています。製造工程の紹介などを通じて、ブランドの裏側にあるストーリーや手仕事の美しさを伝える姿勢が、多くの共感を呼んでいます。
4. ブランド世界観の設計プロセス──4つのポイント
D2Cにおいて、世界観は単なる装飾やトーンではなく、「ブランドが存在する理由や思想を、生活者が体験できる空間や文脈として立ち上げる行為」にほかなりません。そのため、従来のブランド戦略以上に、世界観づくりの意識が必要です。以下は、特に重要な4つのポイントを紹介します。
4-1 ブランドの世界観の核を定義する
世界観は理念や思想から生まれます。「何を信じ、どんな未来を描きたいのか」といった根源的な問いに対し、ブランドとしての哲学や立脚点を言語化することが出発点となります。
4-2 五感に訴える象徴を構築する
色、質感、音、言葉、動き。世界観は抽象的であるからこそ、視覚・言語・空間・音など五感に訴える要素によって具体化する必要があります。中でもD2Cでは、SNSやECサイトといった「メディア化された接点」を通じて、これらを一貫性のある文脈に編み込むことが重要です。
4-3 “物語の体験”としてブランドの接点を設計する
世界観を浸透させるためには、商品やサービス単体ではなく「ブランドとの接点すべてを一つの物語として体験させる」発想が求められます。ユーザーが接触する瞬間ごとに、ブランドの思想が語られているような体験をどうつくるかが鍵となります。
4-4 社内への定着と持続的アップデート
世界観の一貫性は、一部の担当者だけで担保されるものではありません。ブランドに関わるすべての人がその思想を理解し、日々の判断や表現に反映できる状態が理想です。またブランドの世界観は、変化し続ける社会や顧客との対話の中で、柔軟にアップデートしていく必要があります。]
5. まとめ めざすは、語らずに語れる”世界観”づくり
ブランドの世界観は、いわば“言葉以前のブランド体験”です。見るだけで感じ取れる、触れるだけで理解できる──そんな一貫した世界観があってこそ、顧客は共感し、リピートにつながります。
D2Cブランドのブランディング戦略では、思想や価値観を言語化し、それを体験として届ける視点を持つことで、規模を超えたブランド力を育てることが可能です。本レポートが、世界観を核としたD2Cブランディングの第一歩となることを願っております。
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この記事・レポートについて
この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。
