ブランディングの考え方
ブランディングの進め方|失敗しないための4ステップ-ブランディングとは? その4/6-
2025年3月3日9分読み


エグゼクティブサマリー
本記事では、企業がブランディングを進める際の具体的なステップとその実践方法について解説します。ブランディングのプロセスは大きく準備・策定・実行・評価の4つのフェーズに分かれ、それぞれの段階で適切な意思決定が求められます。それぞれのフェーズにおける具体的な手順や分析手法を紹介しながら、企業が自社の状況に応じた最適なブランディング戦略を構築できるよう実践的な視点から解説します。
企業ブランディングの進め方
企業ブランディングの進め方を理解するためには、具体的なステップを知ることが役立ちます。
「どのように進めるべきか?」「どのタイミングで意思決定を行うべきか?」といったポイントを、ステップごとに解説します。
Step0:準備
① 実施に向けた準備(必要性を検討し、体制を整える)
② 目的の設定(目的・目標を定める)
Step1:策定
③ ブランドの分析(現状を把握する)
④ ブランド戦略の策定(方向性を決める)
Step2:実行
⑤ ブランドのクリエイション(ビジュアルやメッセージをつくる)
⑥ ブランドのコミュニケーション(社内外に発信する)
Step3:評価
⑦ 成果の検証と改善(効果を測定し、調整する)
① 実施に向けた準備
ブランディングの実施に向けた準備は、まず「ブランディングの必要性」を検討することからはじまります。ブランディングとは何かを理解しておくと、この検討がスムーズに進みます。ブランディングの必要性が明確になれば、次にプロジェクト準備チームを編成し、内製での実施か外部委託かを検討しつつ、予算枠を検討します。
ブランディングの必要性の検討
経営陣が発起人となることが多いブランディングプロジェクトですが、社内の状況や中長期的な戦略を踏まえ、なぜブランディングが必要なのかを明確にすることが重要です。この検討には一定の時間を要することが多く、場合によっては「実施しない」という選択肢もあり得ます。
内製か外注かを決定
ブランディングを社内で進めるか、外部に委託するかを検討します。
- 内製の場合:自社のリソースを活用できますが、成果が限定的になる可能性があります。
- 外注の場合:専門会社のノウハウを活用でき、確実な成果が期待できますが、コストが発生します。
自社にとって最適な方法を慎重に判断しましょう。
予算枠の設定
必要な施策を見積もり、現実的かつ柔軟な予算を設定します。
②目的の設定
プロジェクトの失敗のリスクを減らし、成功の可能性を高める秘訣は、プロジェクト目標の設定にあると言っても過言ではありません。ブランディングにおいても先ずは目的を設定し、その目標達成に適したプロジェクトチームを編成します。そしてプロジェクトチームが主体となって、プロジェクトのステップとゴールを設定します。
プロジェクトの目的を決める
「企業価値の向上」「パーパス経営の導入」「ブランド認知度の向上」「顧客ロイヤルティの強化」「売上の増加」など、具体的かつ測定可能な目標を設定します。
プロジェクトの目的を決める
「企業価値の向上」「パーパス経営の導入」「ブランド認知度の向上」「顧客ロイヤルティの強化」「売上の増加」など、具体的かつ測定可能な目標を設定します。
プロジェクトチームの編成
各部門から適任者を選出し、役割とタスクを明確にします。プロジェクトオーナーには経営層が就くことが多く、進行管理の責任を担います。
ステップとゴールの設定
各段階で達成すべき目標を明示し、進捗を定期的に確認することで、プロジェクトの遅延や中止のリスクを回避します。
③ブランドの分析
ブランディングにおけるブランドの分析は、複数の工程から成り立ちます。まず、ブランドの現状を客観的に把握します。次に外部分析を通じて顧客動向や競合状況を評価します。さらに内部分析を行い、経営陣の意思や従業員の意見を把握します。これらの情報を基に、現在のブランドの位置付けや課題を明確化し、未来に向けたブランド戦略立案の基盤とします。
ブランドの現状分析
ブランディングプロジェクトを成功させるためには、ブランドの現状分析が必要です。下記のような分析を通じて、自社がどのような強みを持ち、どのような課題に直面しているかを明確にします。
現状分析の手法と内容 | |||
---|---|---|---|
SWOT分析 | 強み、弱み、機会、脅威を分析する手法。内部と外部の要因を包括的な評価で、戦略立案やリスク管理に役立つ | ||
SPEST分析 | 政治、経済、社会、技術の要因を評価する手法。マクロ環境の理解と、ブランドに影響する外部要因を予測できる | ||
ポートフォリオ 分析 | ブランドの各商品やサービスを市場成長率と市場シェアで分類し、分析する手法。資源配分の最適化に役立つ | ||
SW3C分析 | 顧客、競合、自社を分析する手法。ブランドポジションのヒントとなり、競争優位性を高める戦略立案に役立つ | ||
4P分析 | マーケティングミックスの4要素を評価する手法。商品・サービスの市場競争力を高める戦略立案に役立つ |
ブランドの外部分析
次に、ブランドの外部分析を行います。外部分析では、自社ブランドの認知度、利用者がどのような企業や事業、製品・サービスを求めているか、競合他社がどのようなブランド戦略を採用しているかが把握できます。
外部分析の手法と内容 | |||
---|---|---|---|
アンケート調査 | インターネット等で質問票を配布し、定量的なデータを収集し、分析する手法。統計的な結果を得られる | ||
クラスター分析 (プロファイリング) | 多変量解析によって利用者や従業員のセグメントを抽出する手法。ブランディングの精度が高まる | ||
フォーカスグループ インタビュー | 司会者が対話をリードし、深層的な意見や感情を引き出す手法。潜在的なニーズや心理を深く把握できる |
ブランドの内部分析
ブランドの内部分析も欠かせません。理念やMVVが現状のブランドにどう反映されているかを評価し、経営陣の意向をインタビューで把握します。さらに、従業員の満足度やエンゲージメントを社内調査で定量的に分析します。
内部分析の手法と内容 | |||
---|---|---|---|
デスクリサーチ | 既存の資料やデータを収集・分析して評価する手法。迅速かつ低コストで広範な情報を収集できる | ||
経営陣インタビュー | 多経営陣の意思や意向を定性的に把握する。経営層の戦略的意図を理解でき、ブランドの方向性が明確になる | ||
従業員アンケート | 従業員の意見や感情を定量的に把握する。満足度やロイヤリティ、エンゲージメントを統計的に把握できる |
これらの分析を通じて、自社のブランドが現在どのような立ち位置にあるのかを総合的に把握し、強みを活かしながら課題を克服するための戦略を策定します。
④ブランド戦略の策定
ブランドを分析した後は、ブランド戦略を策定する段階に進みます。このステップでは、企業ブランディングの場合と事業(商品・サービス)ブランディングの場合に分けてアプローチする必要があります。
企業ブランディングの場合
企業ブランディングでは、社内外のステークホルダーに一貫したメッセージを伝えるため、企業全体のアイデンティティを戦略的に策定します。企業の理念やパーパス、ミッション、ビジョン、価値観などを明確にし、それらをコミュニケーションに反映させることで、信頼性や評判を高め、競争優位性を確立します。
企業ブランドのアイデンティティ要素 | |||
---|---|---|---|
企業理念 | 企業がどのような社会的責任を果たし、どのような価値を提供するかを示す | ||
パーパス | 企業による社会的な目的。顧客や社会に対して果たすべき役割を明確にする | ||
ミッション、ビジョン | ミッションは企業が達成すべき目標や計画を示し、ビジョンは長期的な目標や理想的な状態を示す | ||
バリュー(価値観) | 企業やブランドが重視する原則や信念。行動基準や意思決定の基盤となる | ||
ドメイン | ブランドが影響力を持つ領域や市場の範囲 |
事業(商品・サービス)ブランディングの場合
事業(商品・サービス)ブランディングでは、ブランドの価値や独自性を明確にし、顧客に伝わるブランドイメージを構築します。ターゲット層や市場でのポジション、ブランドの個性、提供するベネフィットを明確にし、それらを適切に伝えることで、事業の魅力や評判を向上させ、競争力を高めます。
事業(商品・サービス)ブランドのブランドイメージ要素 | |||
---|---|---|---|
ターゲット | 特定の顧客層に焦点を当てて戦略を立てることは、事業(商品・サービス)ブランド戦略の要 | ||
ポジション | ブランドが市場でどのように位置づけられ、競争相手とどう差別化するかを示す | ||
パーソナリティ | ブランドが持つ個性やキャラクター。ステークホルダーとの感情的なつながりを強化するために重要 | ||
機能的ベネフィット | 製品、サービスが提供する具体的な利益や価値。機能や効果など | ||
情緒的ベネフィット | 生活者に提供する感情的な満足やつながり。ブランドのイメージや感情的な価値を強化する |
⑤ブランドのクリエイション
ブランドクリエイションでは、ブランドアイデンティティを視覚的・言語的に表現するクリエイティブ要素を開発します。各要素を一貫性と統一性をもって開発し運用することで、差別化や認知度向上、好感醸成などを目指します。
ブランドの主要クリエイティブ要素
- ブランド名称
ブランドの価値やメッセージを反映するブランド名称は、ブランドの認知や信頼性を高めるために重要な役割を果たします。適切な名称はブランドの成長を加速させます。 - ブランドメッセージ(ステートメント)
ブランドのアイデンティティを、端的かつ印象的に伝えるフレーズの開発を目指します。ブランドの核心を表現するブランドメッセージは、ステークホルダーとの感情的なつながりを築くために重要な役割を果たします。 - トーン&ボイス
ブランドのパーソナリティや価値観を反映した口調や言葉遣いを設定します。適切なトーン&ボイスは、ブランドアイデンティティの構築に寄与し、ステークホルダーからの信頼感と親しみを醸成します。 - ロゴマーク
ブランドの視覚的な象徴であるロゴマークを戦略的に開発します。ユニークで記憶に残るロゴマークは、ブランド認知度を効率的に高め、競合他社との差別化に役立ちます。 - ブランドカラー
ブランドを視覚的に認識しやすくするカラーシステムを開発します。適切なカラーの選定と運用は、一貫したブランドイメージを効果的に形成し、視覚的な訴求力を高めます。 - ビジュアルスタイル
ブランドのコミュニケーション時に使用する画像やグラフィックのスタイルを設定します。統一感のあるビジュアルスタイルは、ブランドの世界観を醸成し、視覚的な魅力を引き立てます。
⑥ブランドのコミュニケーション
ブランドクリエイションの次のステップはブランドコミュニケーションです。ブランドコミュニケーションというと、広告やPRなど個々の施策を連想しがちですが、特性の異なる4つのメディアに分類した上で、それぞれの施策を理解した方がアプローチしやすくなります。
ブランドコミュニケーションの主要メディア
- オウンドメディア(自社媒体)
公式Webサイトやブログ、企業のソーシャルメディアアカウント、会社案内、商品カタログなど、自社が直接管理するメディアを活用します。これらのメディアを通じて、一貫したブランドメッセージを発信し、ステークホルダーとのエンゲージメントを深めます。 - ペイドメディア(有料広告):
テレビ広告、オンライン広告、SNS広告など、さまざまな広告手法を組み合わせて、ブランド認知度を向上させます。ペイドメディアでは、ターゲット市場に最適化した上で一貫したブランドイメージを発信することを意識します。 - シェアードメディア(共有媒体)
ブランドに関する情報を随時共有しステークホルダーからのフィードバックや口コミを促すことで、ブランドのファンコミュニティを形成し、エンゲージメントを高めます。 - アーンドメディア(獲得媒体)
PR活動などを通じて、信頼性のある情報を発信し、ブランドの客観的評価を高めます。第三者の評価の活用や、口コミやレビューサイトでのポジティブな評価を促すことで、ブランドの認知度と信頼度を高めます。
⑦成果の検証と改善
ブランディングの最後のステップとして実施した施策の効果を検証し、必要であれば改善を行います。検証と改善の方法についていくつか解説します。
検証と改善のポイント
- KPIの定期的なモニタリング
- 設定したKPI(主要業績評価指標)を基に、ブランド認知度の向上、顧客エンゲージメントの増加、売上の変動などを定期的に測定します。その上で、施策の効果を客観的に評価し、どの施策が効果的であったかを明確にします。
- 顧客フィードバックの収集
- 顧客からのフィードバックを収集することも大切です。アンケート調査やオンラインレビューの分析を通じて、顧客の評価や期待を把握し、顧客視点で改善点を明確にします。
ブランディングは一度確立すれば終わりではなく、状況の変化に応じた継続的な見直しが重要です。
まとめ
ブランディングは、準備、策定、実行、評価という一連のステップを踏むことで、企業の価値を高め、競争力を強化する取り組みです。まず、必要性を検討し、体制を整えたうえで、目的を明確にすることが重要です。次に、ブランドの現状を分析し、課題を把握したうえで戦略を策定し、具体的な施策を進めます。その後、ビジュアルやメッセージの制作を通じてブランドを形にし、社内外に発信することで、認知や理解を促進します。最後に、施策の成果を検証し、必要に応じて改善を行うことで、ブランディングの効果を持続的に高めていきます。
記事・レポート
最新記事・レポート
ブランドライブラリー
ブランドライブラリーの
最新情報
この記事・レポートについて
この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。
