ブランド刷新で何を残すべきか。ブランドコンサルティング会社としての判断基準を、noteでも紹介しています。
「ブランドを刷新する前に、残すものを決める。フォビスタがお勧めする、ブランドコンサルティング術。」 ↗︎
変革期のブランド戦略
2026年5月27日 《更新》 8分読み


事業の再構築は、程度の大きい小さいはあるにせよ、周期的に向き合う必要がある経営テーマでしょう。市場環境や顧客の価値観がめまぐるしく変化する現代社会にあって、「いまのまま延長線上でよいのだろうか」という違和感が生まれたとき、事業の再構築は現実的な選択肢として浮かび上がります。
事業再構築を、事業転換や新規事業開発などの技術論としてではなく、ブランドとの関係性から捉え直すのが本レポートです。ブランドとは、企業が社会との関係のなかで積み重ねてきた約束や期待の集合体です。事業の再構築を考える時、この蓄積は無視できない前提条件になります。中堅・中小企業の事例も参照しながら、事業として「変えるべきもの」と「残すべきもの」を見極めるヒントとしていただけたら幸いです。
経営の現場では、市場環境や顧客の変化に意識が向きやすくなります。その一方で、自社の判断基準や意思決定の軸は、十分に言語化されないまま次の打ち手の検討に進んでしまうことが少なくありません。
事業再構築は、新しい施策や事業アイデアを考える以前に、自社のこれまでを見つめ直す時間を必要とします。どのような価値を提供し、どのような理由で選ばれてきたのか。その積み重ねを確認することが、再構築の出発点になります。
外部環境を起点に事業を組み替えることではなく、自社が価値を発揮しやすい領域を見定め直すこと。この視点が、事業再構築の本質に他なりません。とくに中堅・中小企業では、創業時の思想や過去の成功体験が、判断の前提として現在も機能しています。それらは企業の個性を形づくる重要な要素であり、事業の再構築においても出発点になります。
再構築のプロセスでは、これまでの選択を一度整理し、これからも活かせるものと、役割が変わりつつあるものとを区別していきます。その整理が進むことで、事業の方向性は徐々に輪郭を持ちはじめます。
ブランドは、顧客体験、営業姿勢、価格設定、社会活動、意思決定の考え方など、企業の振る舞い全体によって形づくられます。そしてその積み重ねが、社内外に「この会社らしさ」として共有されます。
事業再構築の局面では、この積み重ねが判断の前提となります。新しい事業に挑戦するときも、既存事業の形を変えるときも、どの文脈を引き継ぎ、どの文脈を改めるかを整理することが、再構築の質と正当性を左右します。
つまりブランドは、変化の方向性に意味を与え、経営判断の軸を揃えるために機能します。その軸が共有されていることで、事業再構築は場当たり的な施策ではなく、企業のチャレンジングな歩みの延長として理解されるのです。
健康総合企業・タニタのグループ会社である株式会社タニタヘルスリンクは、「はかる」機器メーカーとして培ってきたブランドを基盤に、健康支援サービス事業へと価値提供の軸を広げてきました。
同社は、健康づくりを通じて経営者自身のパフォーマンス向上と企業の持続的な成長に寄与することを目的に、会員制ヘルスケアサービス「タニタ健康プログラム」を新たに展開しています。健康管理アプリ「HealthPlanet」をベースに、歩数や健康指標データの可視化、AIによる将来リスク予測、会員同士のコミュニティ機能などを組み込み、日常的な生活習慣の改善を促す仕組みを提供しています。

この取り組みは、製品中心で築いてきたブランド価値を、「健康を支える」というサービスの文脈へと発展させたものです。従来から共有されてきた価値観を土台にしながら顧客接点を拡張している点で、ブランドと事業の再構築が自然につながった好例といえるでしょう。
富山県高岡市に本社を置く鋳物メーカーの株式会社能作は、100年以上の歴史を持つ伝統産業を基盤に、製品の価値とブランドの意味を拡張する再構築に取り組んでいます。従来は伝統的な鋳物製品を中心とした事業でしたが、5代目社長・能作千春氏のもとで、「ものづくりのその先にある顧客体験価値づくり」を掲げた事業の転換を進めています。

同社は、補助金やM&A関連施策を活用しつつ、地域支援機関と協働しながら、新たな価値創出の方向性を整備しました。具体的には、伝統鋳物の高度な金属加工技術を活かし、ジュエリーや生活雑貨など新たな商品領域へと進出したのです。
従来の伝統工芸品という枠を超えて、消費者の生活シーンに寄り添うブランドとしてリポジショニングした能作の事例は、長い伝統を保ちながらも顧客との関係性を再構築し、ブランド価値を新領域に拡張することの可能性を示しています。
事業再構築を検討する場面では、「何を変えるか」という問いが先行しがちです。ただ実務の現場では、それと同じくらい「何を引き継ぐか」を考える必要があります。両者は対立する概念ではなく、同時進行すべき判断項目なのです。
その際の一つの手がかりとなるのが、「ステークホルダーとの約束」という視点です。顧客や取引先、社員からどのような期待を寄せられてきたのか。どの価値に対して信頼が集まってきたのか。これらは、事業の形が変わっても引き継いでいくべき要素です。
一方で、提供手段や事業モデル、対象とする市場などは、環境や成長段階に応じて役割が変化します。こうした要素には、ブランドの文脈と照らし合わせながら、適応していかなければなりません。
このように、ブランドを軸に据えて整理することで、事業再構築の必要性は客観的に判断できます。判断の基準は、「いかに新しくなるか」ではなく、「自社らしい価値発揮につながるかどうか」に置かれるべきでしょう。
事業の再構築は、成長や環境変化に伴って、どの企業も向き合う可能性のあるテーマです。その難しさは、変化の必要性と、これまで築いてきた価値との間で、判断が揺れ動きやすい点にあります。
「変えるべきもの」と「残すべきもの」を見極めることは、正誤を判定する作業ではありません。自社がどの価値で選ばれてきたのかを丁寧に振り返り、ステークホルダーとのあいだで共有されてきた「約束」を捉え直すこと。そして、どの価値を今後も約束し続けたいのかを言語化できているかどうかが、事業再構築の質を左右します。
本レポートが、事業再構築を検討する際の視点整理や判断の手がかりとして、少しでもお役に立てば幸いです。
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このレポートについて
フォアビスタ株式会社 代表・ブランディングディレクター
大手広告代理店、インターブランド ジャパン、デグリップ ゴーベ グループ ジャパンを経て、フォアビスタを設立。20年以上にわたり企業・事業・商品を対象としたブランド戦略の立案と実行/実装を統括している。経営とブランディングを結びつける伴走型アプローチで、絵に描いた戦略で終わらないブランドコンサルティングを実践。数多くのブランディングプロジェクトを成功に導く。
これまでに携わった主なブランドは、JR東日本、ラクス、寺岡精工、味の素、塩野義製薬、NTTドコモ、カゴメ、サントリー、ローソンなど。企業ブランディングから事業開発・組織活性化まで、その支援領域は包括的かつ多岐にわたる。

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