ブランドの構築・維持・成長

そもそも中小企業にブランディングは必要か?その意義とROIの考え方

2025年5月1日11分読み

そもそも中小企業にブランディングは必要か?その意義とROIの考え方

エグゼクティブサマリー

ブランディングの重要性を理解している中小企業の経営者や担当者にとって、最大の関心事は「その投資に見合う効果が得られるのか」という点です。実際、多くの企業が経営資源の制約の中で、ブランドへの投資とその成果の見極めに悩んでいます。しかし、変化の激しい市場環境においては、価格や機能だけではなく、「なぜこの企業を選ぶのか」を伝えるブランドの存在こそが競争優位を生み出します。

本レポートでは、中小企業がブランディングに取り組むことで得られる具体的な成果や、投資対効果(ROI)をどう評価するかについて、実例を交えて実践的に解説します。ブランディングを経営活動の一環として位置づける視点から、長期的に成果を生み出すための考え方とアプローチを提案します。

中小企業がブランディングに取り組む意義

中小企業にとって、リソースの限られた中でいかに成長戦略を描くかは常に大きな課題です。こうした中で、企業のアイデンティティを明確にし、自社らしさを伝えるブランディングは、競合との差別化を実現し、長期的な顧客との信頼関係を築くための基盤となります。

また、ブランディングは顧客だけでなく、従業員や取引先、地域社会との関係性にも影響を与えます。中小企業が一貫したブランドメッセージを持つことで、社内外の信頼を醸成し、組織の一体感や事業の持続性が高まります。

とくに採用活動においては、企業の理念や価値観が明文化され、それに共感する人材を惹きつけることで、単なる人数の確保ではなく、自社に合った人材とのマッチングが促進されるようになります。また、社員が企業のビジョンや方向性を理解しやすくなることで、定着率や組織の一体感の向上にもつながります。

このように、ブランディングは単なる外向けの施策ではなく、組織の内外にわたる変化と効果をもたらす経営上の重要な取り組みだと捉えることができるのです。

中小企業のブランディングにおけるROIの考え方

ブランディングへの投資は、広告や営業活動のように即時の売上向上につながるものではないため、ROIを数値で示すことが難しい側面があります。しかし、中長期的な視点で見ると、ブランドは確実に企業価値の向上を支える要素となります。

たとえば以下のような視点から、ブランドの投資対効果を捉えることが可能です。

  • 価格競争に巻き込まれずに済むことでの利益率改善
  • 採用活動における応募数や質の向上
  • 新規取引先からの引き合いの増加
  • 既存取引先との関係強化による取引拡大
  • 社内の意識統一による業務効率化

これらは一見、定量化が難しく見えますが、KPIの設定や社内アンケート、営業活動の変化などを通じて定性的・定量的に測定可能です。ROIとは単に「売上÷コスト」ではなく、「ブランドが果たした役割と企業の成長の関係性をどう捉えるか」にも関わる、経営判断の視点が求められるのです。

効果的な投資対効果を実現している中小企業のブランディング事例

株式会社稲庭うどん小川

秋田県湯沢市稲庭町を拠点とする伝統的な稲庭うどんを製造する株式会社稲庭うどん小川。創業から300年以上の歴史を持ち、手綯いによる製法を継承。小売・業務用に加え、積極的に海外展開を行なっています。

主な取り組み

  • 伝統製法を活かしたブランド再構築
    手綯い製法や乾燥技術といった職人の技をブランドの核と位置付け、パッケージデザイン・ロゴを一新。高級感と信頼感を訴求するビジュアルアイデンティティを確立。
  • 直販チャネルの強化とデジタル展開
    自社ECサイトの立ち上げにより、販路のデジタル化を加速。ギフト需要や定期購入のニーズを捉えた商品開発も並行して実施。英語対応による海外顧客への訴求も強化。
  • 海外市場への進出と販促活動の多言語対応
    欧米やアジア市場への出荷に対応し、海外見本市でのプロモーションを実施。販促資料を英語・中国語などに対応させ、伝統文化としての価値を強調。

成果(ROI)

  • オンライン売上の拡大とブランド認知の向上
    自社ECサイト経由の売上が前年比約1.5倍に伸長(2021年→2022年)。テレビ番組や百貨店催事などの露出機会も増加し、国内外での認知度が向上。
  • 輸出比率の拡大
    海外出荷比率が全体売上の約20%に到達(2022年時点)。米国・香港・シンガポールなどへの定期出荷が実現。
  • 地域ブランドとしての地位確立
    秋田県の伝統産業支援事業にも参画し、地域資源としての評価を獲得。観光施設との連携販売や体験イベントなども実施。

株式会社グリーンズ

株式会社グリーンズは、三重県四日市市に本社を構えるホテル運営会社です。米国大手ホテルチェーンChoice Hotelsとのフランチャイズ契約に基づき、「コンフォートホテル」などを全国で展開する一方で、地域イベントや地元食材を活かしたサービス開発などにも積極的に取り組んでいます。

主な取り組み

  • ブランドポートフォリオの拡充と明確化
    米「コンフォートホテル」「コンフォートイン」「コンフォートスイーツ」などを国内で展開する一方で、自社開発ブランド「グリーンズホテルズ」や「ホテルトラスティ」を通じて、用途・立地・顧客層に応じたブランド設計を強化。
  • 地域密着型ブランド戦略
    地元三重県や中部地域に根ざしたホテル開発を進め、観光資源との連携や地域イベントとの共同企画を実施。地域の魅力をホテル体験に取り込む試みを継続。
  • SDGsを意識したサステナブル経営の明文化(2022年)
    ブランドメッセージ「よろこびのある場所を、もっと。」に基づき、ホテル事業を通じた地域共創、環境負荷低減などを中期経営計画に明示。

成果(ROI)

  • ホテル運営施設数の拡大
    2011年に約60施設 → 2023年には100施設超(国内14都府県に展開)。
  • ブランド別収益バランスの向上
    フランチャイズブランドに依存しすぎない収益構造へ移行。2023年2月期、グリーンズホテルズなど自社ブランドの比率が過去最高に。
  • ESG経営への評価向上
    「三重県SDGs推進パートナー」に登録(2022年)、観光業における地域共創型モデル企業として地方紙・業界誌でも紹介。
  • 客室稼働率の回復(コロナ禍後)
    2020年の最低水準(40%台)から2023年には約65.7%まで回復。業界平均を上回る水準を維持。

サイボウズ株式会社

サイボウズは、グループウェア「kintone」や「Garoon」などを提供するソフトウェア企業です。特に「チームワークあふれる社会をつくる」をミッションに掲げ、働き方改革や組織文化改革の先進企業として注目されています。

主な取り組み

  • コーポレートブランドの再定義(2011年〜)
    社員の多様性を尊重しながら「100人100通りの働き方」を掲げ(2024年「100人100通りのマッチング」に変更)、柔軟な勤務制度(副業OK、在宅勤務、短時間勤務など)を導入。これを自社のブランドアイデンティティに位置づけ、積極的に発信。
  • 社内外へのブランディングメッセージ発信
    採用広報やSNS、コーポレート広告を通じて、自社の文化や制度を可視化。
  • ドキュメンタリー動画・書籍出版・講演活動
    代表の青野慶久氏を中心とした書籍出版やメディア出演、TED登壇などによってブランド価値を高めた。

成果(ROI)

  • 離職率の大幅低下
    2005年には28%だった離職率が、制度改革とブランド強化を経て4%以下(2020年)に改善。
  • 応募者数の増加
    採用ブランドの強化により、年間の新卒・中途応募者数が**前年比約1.7倍(2017年時点)**に増加(日本のHRメディア掲載データより)。
  • 企業イメージの向上
    Great Place to Work®の「働きがいのある会社」ランキングで毎年上位にランクイン(2023年:中規模部門で第1位)。
  • kintoneの導入企業数の拡大
    2014年:約4,000社 → 2024年には30,000社以上に成長。

成功のポイント -効果的な投資対効果を実現するブランディング-

中小企業がブランディングに取り組む際、特に重要なのが「投資に見合う効果」を得ることです。限られたリソースで最大の成果を上げるためには、戦略的にブランド設計を行い、成果を確実に測定・確認できる仕組みを整える必要があります。以下の視点に基づいて、効果的な投資対効果を実現することが可能です

経営戦略と連動した明確な目標設定

まず、ブランド戦略を経営戦略と一体化させ、明確な目的を持って取り組むことが大切です。例えば、売上の増加や新規顧客獲得、あるいは特定市場での認知度向上など、達成したい目標を明確に定め、その目標に向かって資源を投入します。こうすることで、投資対効果を常に意識した施策を打ち出せます。

効果が測定可能な施策を優先する

小規模でも、短期間で効果が実感できる施策をまず実施することが重要です。例えば、ウェブサイトのリニューアルやソーシャルメディアでのブランド発信など、すぐに結果を測定できる施策から始め、投資したリソースの回収が見込めることを実感できるようにします。

ターゲットに向けた的確なアプローチ

投資対効果を最大化するためには、ブランディング活動を正確にターゲット市場に合わせることが求められます。大きな予算をかけることなく、適切な市場セグメントに焦点を絞り、強みを最大限に活かすことで、より効率的にリターンを得ることができます。

定期的な評価と改善を行う

効果的なブランディングには、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回すことが不可欠です。定期的に結果を確認し、効果が薄い施策を見直し、より高いROIを狙える施策に再配分することで、投資の効果を最大化します。

まとめ

「そもそも中小企業にブランディングは必要なのか?」という問いに対する答えは、企業の置かれた環境や目指す方向性によって異なります。しかし、価格競争や市場の変化に直面する中小企業にとって、ブランドは「選ばれる理由」を明確にし、持続的な競争優位を築くための重要な経営資源となり得ます。

加えてブランディングは、単なる外向けの広報ではありません。組織のアイデンティティを社内外で共有し、社員の意識統一や採用活動の質を向上し、さらには業務効率にも寄与します。こうした広範な効果を踏まえると、ブランディングは中小企業にとってこそ意味のある投資だといえるでしょう。

またROIという観点で見ると、即効性のある数値的成果ばかりに注目するのではなく、企業の成長との相関関係や、長期的な価値創出の視点が必要となります。明確な目標設定と測定可能な施策、継続的な評価と改善によって、限られた資源であっても最大の効果が得られるブランド投資を実現することが可能です。

本レポートが、貴社におけるブランディングの意義と効果を見つめ直すきっかけとなり、今後の成長に向けた一助となれば幸いです。

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この記事・レポートについて

この記事・レポートは、20年以上にわたるブランディング実績と、ブランド戦略に関する最新事例の研究に基づいてフォアビスタ株式会社が執筆したものです。ブランディングにおける課題解決の糸口、戦略実行のヒント、実施施策のノウハウを提供しています。

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